規格外のそいつ
魔術士ギルドの職員が総立ちで出迎える。
「はいはい、ご苦労さま〜」
その中をアイシャが挨拶して行き、バラダーが後をついて行く。
(いや、逆じゃね?)
職員一同は同じ疑問を心に浮かべたが顔には出さない。彼らもプロで大人だ。
「おねーさんっ」
「うわぁ! 何だアイシャか。何しに来たんだい?」
「おじさん連れてきた」
「おじさん?」
魔術士お姉さんはアイシャの連れを見て(あらやだ、いい男)と感じてアイシャに誰なのかと聞く。
「えーっと、ブラジャー? だったと思う」
「国家治安維持局局長のバラダーだ。よろしく魔術士エルマーナ」
「こっか⁉︎ こ、これは失礼しました!」
「おねーさん、名前あったんだ」
(あるに決まってんだろーよ!)
当たり前のことに驚くアイシャに言ってやりたいが我慢するエルマーナは大人だ。
「マンティコア、ですか」
「そうだ。例の件、我々も任せておくには少し特殊なケースだからな。私が出張ってきたわけだ」
「は、はい! ではこれから準備を致しますので、しばらくお待ちを!」
「バラダーさんは偉い人なの?」
「今さらか──この国にある全てのギルドをまとめるのが国家治安維持局であり、そのトップが私なのだ」
「ふーん。大変そう」
「……そうだな」
「この森がそうか」
「はい、長らくエルフの侵攻が常態化してましたが、先日それにも目処が立ったばかりで」
「この子のおかげで、か」
「はい、面目次第もありません」
森を歩きながら先日のことのおさらいをするギルド職員とバラダー。
「気にするな。それは我々とて同じ。だからこそ、その一部始終を知っておきたいのだ」
この局長は無闇に下を責め立てたりはしない。ここにも責務を感じ自ら訪れ現状把握に努めようという姿勢である。
「女神様!」
「ショブージくん、お久しぶり」
森に入ってエルマーナの案内でエルフの集まるところへと辿り着くとショブージが出迎えてくれる。
「なんだその女神様というのは」
「局長、エルフの彼ロリコンなんです」
「エルフで、ロリコンだと……っ」
よくよく考えれば長寿の彼らからすれば人間相手の場合大抵はロリコンになってしまうのだが、相手がまだ13歳と言うのが紛う事なきロリコンと認定させている。
「それでショブージくん、マンティコアがなんだって?」
「はい、人間族の皆さまとは合意にこぎつけたのですが、この森に棲むマンティコアとのコミュニケーションが取れる、安全であると確認を出来なければ締結されぬと言われまして」
「なるほどねー」
ショブージの話を聞いて思案するアイシャ。その様子を伺うバラダーはとりあえずエルフとの繋がりは確認出来たと頷く。
「さて、どうするのかあの子は」
「局長、正攻法とか実はハッタリだったとかは期待しない方がいいですよ」
「ん? どういうことだ?」
エルマーナは無言で指を差して示す。
「人面犬ーーーっ!」
エルマーナとバラダーが注視するなか、アイシャはありったけの大声で叫ぶ。
すると森の奥から駆けてくるシルエットが見えたかと思うと轟音をあげてあっという間にアイシャの前に到着した。
『人面犬などではないと何度言えば分かるのだお主』
「ほら、ね?」
「探しに行くこともなく、呼びつけたのか? いま、あの子は。あの暴威の権化みたいな規格外のマンティコアを」
バラダーも経験豊富な元冒険者だ。マンティコアも過去に何度か見たことがあるが、そのサイズと威容は桁違いだったとのちに語った。