種族間の架け橋
アイシャが人面犬と思っているマンティコアを仕留めて帰ってくる頃、焚き火のあるところで何かが割れる音が響く。
(まさかフェルパちゃんに危険が⁉︎)
アイシャの“寝ずの番”は自分に対する危険は察知するが他所には作用しない。
(だからあのエルフを置いてきたのにっ)
「フェルパちゃんっ!」
アイシャが急ぎ戻ったそこには、すやすやと眠るフェルパとその近くで仰向けにひっくり返って弓なりに反った状態で痙攣しているショブージが朝日に照らされていた。
「何やってんのあなた」
「あひ、あひひ──」
アイシャはフェルパの無事を確認して、抱きかかえるぬいぐるみの両目がなくなっていることに気づいた。
(フェルパにあげた“見守りぬいぐるみ”の両目ともがない。バリアがエルフの矢から守って一個。もう一個はさっきまであったのに……それにこのショブージの状態)
ちらりとショブージを見たアイシャはその中心にかつてアイシャにも馴染みのあった盛り上がりを見て察する。
「ショブージ」
「は、はひ」
ショブージはまだぬいぐるみのバリアに弾かれた衝撃から復活出来ていないが、アイシャがあげた脚のある位置に気づきだらだらと冷や汗を流す。
「フェルパに手を出したら、次は!」
「ああーーーーおぅっ」
すでに罰も受けてるし未遂のそれを踏みつけるのは可哀想なのでつま先で弾くにとどめた。
その微妙な優しさがまた、彼の新しい扉を開くとも知らずに。
夜が明けてアイシャとフェルパは寄り添うように座っている。
「ねえ、あのエルフの人どうしたの?」
「さあ? 虫に変なとこでも刺されたんじゃない?」
さっきまでのけぞって痙攣していたショブージは今は股間を押さえて横倒しに丸まってピクピクしている。
慌ててやってきたアイシャはまだ装備中のグリーブで先っちょを引っ掛けてしまったのだ。
軽く、とはいえマンティコアの顔面を陥没させる足で引っ掛けたのだ。
(彼ももしかしたら女の子の仲間入りかも知れない)
棒に引っ張られて衝撃は玉にまで伝わった事だろう。しばらくは回復の見込みはない。
2人は気にせずパンを焚き火で炙って食べる。
「あ、フェルパちゃん。ぬいぐるみがいつのまにか壊れてるみたいだから後でなおすね」
「え? えー……あっ、おめめが! おめめがないよ!」
ずっと後ろから抱えていて顔が見えていなかったフェルパ。
「まあ、あんなことがあって目だけで済んだんだからむしろ奇跡だよ」
エルフの矢に撃ち抜かれて、木に激突して、欲情した青年に狙われて。その報いで青年もふたつほど失いそうだが。
あまり説明するタチではないのですが。
タイトルの“種族間の架け橋”
敵対関係にすらあるはずのエルフが人間のフェルパに手を出そうとした事。
その結果海老反りのその姿勢。
まあその架け橋の中央には短めのトーテムポールが立っているそうですが。




