マンティコア
茂みをかき分け、ショブージのいる焚き火あたりからは目のつかないところにきたアイシャ。
「めっちゃ黄色い」
自分の出したものがこの暗がりで見えるはずないのに何故か口をついてでてくるアホの子。
「さて、おりこうに待っててくれるなんて。エルフより気が利くようね。この──」
立ち上がったアイシャと対面しているのはそのサイズまでもがまさにライオンの魔物。違うのは立ち昇る黒いモヤが月明かりにもはっきり見えることとコウモリを思わせる翼。そして
「人面犬、かな」
人のように見えるその顔である。
「だだだだれがが、いいいぬがぁぁ」
「何て? 良く聞き取れない。もう一回」
「いぬでばばないい」
犬呼ばわりが気に入らないマンティコア。しかし人間のような顔をしていてもその声帯は違うようだ。
「人面犬も別に喋れるわけじゃないのね」
アイシャは何故かガッカリしていてマンティコアはますます怒り、血管を浮べて顔を真っ赤にしている。
「ごろず。おばえごろずう」
「やってみなよ、犬ころ」
ピシッとアイシャは構える。仁王構えというやつだったか。もうアイシャの中でも名前までは記憶にない。
もはや生きるための闘い方でしかない。
マンティコアは地面を蹴って迫る。それは翼の浮力か、脚の動きからの水平を滑るような高速移動。
90度に傾けた顔は顎を開けばアイシャを丸齧りにして仕留められるだろう。
「“ディルア”」
アミュレット“偽りの正義”の装着状態。腕と脚を覆うのは攻防一体の装備。
右に避けたアイシャは左腕のガントレットで顎を押して閉じさせ、右脚のグリーブがマンティコアの前脚を制する。
「はあぁっ!」
気合いを込めて放つ手刀はマンティコアの首を捉えて叩き伏せた。
「ぐぼぼおっばが、ばがな」
「本当、言葉覚えてからこい」
アイシャが放つ左の蹴りは、グリーブによって威力を増しており、マンティコアの鼻を捉えて陥没させてそのまま命を奪った。