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神様のふり

 矢の威力はとても強く、いかな銀ぎつね着ぐるみパジャマといえどその衝撃は殺しきれない。


 アイシャは“寝ずの番”によって直前に覚悟出来ていたけど、そうでないフェルパは後ろへと飛んで木の幹に当たり地面に座り込んだ。


(フェルパちゃん!)


 アイシャは今すぐにでも駆け出したいが、相手の全貌が見えていない状態ではそれも出来ない。


「ふはっ、ふはっ、ふははははっ! ははっ、は……」


 老エルフは高らかに笑う。


 しかしそれも微動だにしないアイシャとフェルパの身体に突き立った矢がポロポロと落ちるのを見て尻すぼみになって最後には黙り込んでしまう。


「狐神様……エルフの……あれだけの矢を受けて無傷など」


 ショブージが絶句したのと同じで他のエルフたちもあり得ないものを見たようにしてやがて平伏しだした。


「あ、あの輝きをっ、見たか! あれは銀狐の化身っ! その神様に我々は弓を引いたと、いうのか……」


 矢を弾いたその毛並みは炎に揺れる銀の輝き。エルフたちはみな恐れ、敬い、悔やむ。


「そんな馬鹿な」


 老エルフは平伏したエルフたちの恨みの視線を敏感に感じ取っている。退くことの出来ない年寄りが暴走した結果、それに従ったエルフたちは神の逆鱗に触れるのだと。




「お、お怒りである──」


 エルフたちは棒立ちのアイシャではなく、奥の座り込んだフェルパを見て怯えている。


 アイシャには分からずなるべく静かに厳かに振り返ると、大股を開いて前傾姿勢で座るキツネがそこにはいた。


(まるで前世のヤクザみたい。まあ、失神してるようだけど)


 しかし既に日の沈んだここで炎の揺らめきは狐神様の怒りを演出している。


『変わったもてなしだが、薬草は持ってきたのか』


 アイシャはブレない。フェルパの安全がわかった途端に自分のうんこの心配だ。


「はっ! い、いえ……すぐに! すぐにお待ちを──」

『他の者に行かせよ。貴様はそこで地べたに這いつくばっていろ』

(これ以上の面倒はいやだ。けど、解決が出来るなら)


『話が終わるところだったのだ。穏便に。それを貴様らは』


 それだけでエルフたちが地面に埋もれるほどに顔を打ちつける。


「狐神様っ! 彼らの無礼をどうか、どうかお許しを!」


 ショブージも頭を下げて懇願する。


(うーん、そんなことされても何も。いや、このまままとめちゃおう)

『分かった。もうひと柱に尋ねる──ふむ、ふむ。喜べ、許すそうだ』


 フェルパは失神したままである。


「おおっ、なんと慈悲深い」

『貴様らの脆弱な矢では鍼治療にもならぬ』


 鍼治療? と首を傾げるエルフたち。


『しかし、その神をも恐れぬ所業。ただでは済ませられぬな。』


 ホッとしたエルフたちはまたも緊張を強いられる。


『ここにいるショブージにも伝えたことだ。ここを一旦立ち去り、人間族の指示に従え。そして対話をするのだ。間は我々が取り持とう。それが無理ならここで全員──』


 エルフたちの判断は素早い。


 神の怒りを回避できるのであれば、再び頭を地面に当てる。


 今度のそれは無様な這いつくばったものではなく、礼を尽くしたもので、アイシャはやり過ぎたかなと思うほどだ。


『ふぅ、ショブージは共に参れ。他は散るがよい。エルフの命運はショブージに託されたと知れ』


 アイシャはさっさと終わらせたくて解散させた。


 そのせいで薬草を持ってきたエルフも恐れて引き返してしまったが。


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