夜中にガタガタしだすと近所迷惑なやつ ※イラストあり
「狐神様……」
完全にここがエルフの侵入してきている土地である事も忘れてアイシャもフェルパもストレージの機能を調べることと牛の解体に夢中になっているところでエルフと邂逅した。
(なんだか変な事言ってたな。狐神様? しかもなんか跪いたし)
「おい、ショブージ。一体なにして──」
遅れてやってきた老齢のエルフもアイシャたちを見て跪いた。
「ま、まさかこんなところで狐神様が儀式をやっとるとは思わなんだ。どうか、どうかワシらを許してくだされ」
そしてふたりともが平伏す。
「ねぇ、アイシャちゃん。これはどういうこと?」
「しっ。フェルパちゃんはとりあえず喋らないで俯いていて。顔を見られちゃダメ」
「うん、わかった」
そしてアイシャも顔を見せないようにして俯く。
するとフェルパもアイシャもそのフードのファスナーがぐっと上がって完全に顔が隠れてしまった。
「なにこれ、勝手に」
「しぃー。私も分かんないけどこれは好都合。前も意外と見えるしこれでいこう」
デフォルメされた狐の顔ではあるが、血塗れで佇む姿は十分に異様。
アイシャは手に持った包丁をビュンッと振ってこびりついていた血を払ってみせる。地面に嫌な音を立ててぶつかる鮮血。
その動作に過敏に反応したエルフたちはもう震えて頭を下げて動かない。いや、プルプル動いてはいる。
『ここには何しにきた』
「アイシャちゃんかっこいい」
むりくり低くした声でそれっぽさを演出するアイシャと小声で喜ぶフェルパ。
「あぁ……」
『言葉を忘れたか? とく話せ』
震えて声も出ないエルフ。アイシャはもう一度包丁を振る。
「ひぃ……こ、ここへはこの若造を追いかけてきた次第で──」
『ならそちらの若者は』
「ひっ」
若い方のエルフ、ショブージはその震えを大きくさせて(洗濯物が偏った洗濯機みたいだな)とアイシャは思ったほどにガタガタ震えている。
『ここへ、何を、しに、きた』
「わわ、わたしは、人間との対話を、試みて、ひっ、ひぃ──」
そこまで振り絞ってショブージは横に倒れてしまった。
ブルッ……。
その光景にアイシャも震えたが、こちらはただの尿意だった。