2度目は間違わない
魔術士ギルドとエルフたちが地味なアピール合戦を繰り広げるなか、アイシャとフェルパのぬいぐるみ遊びでは既にうさぎ夫婦に5羽の子どもが出来ている。
「おかえりなさい、ご飯できてますよ」
「いらない、外で食べてきた」
「おとーさん。あしたはゆーえんちだねー」
「わるいが、取引先とゴルフ接待がはいってな。おまえがつれていってくれ」
「そんな、この子たち先月から楽しみにしていたのに」
「仕事なんだ、わかってるだろ」
「そんなこと言ってどうせあの女のとこなんでしょ! 全部わかっているのよ!」
「な、どうしたと言うんだ。おちつけ、おい」
「もうだめよ、私たちはもう、おしまいなのよ」
「な、なあ、落ち着いて話そう、な」
「ブスっ。わたしもすぐ後を追うから……ブスっ」
「わーん、おとーちゃーん、おかーちゃーん」
「アイシャちゃん、それうさぎのぬいぐるみ遊びだよ、ね?」
(ゆーえんち?ゴルフってなんなんだろう)
「で、どうなったの?」
「なんで見学に来ておいて見てないのよあなたは」
疲れ果てたお姉さんには余裕などない。さっきから何やら訳のわからん愛憎劇が繰り広げられているのが気になって、集中どころではなくなっていた。
「結果は引き分けかな」
マイムが代わりに答えてあげる。アイシャたちのうさぎ夫婦も引き分けていた。
「そうなんだ。じゃあ今日はもうおしまいなの?」
「あいつらが引き揚げたら、ね」
お姉さんは疲れ果てた様子。
「まあ、あいつらもここに届かせられるものも無いことだし少し休憩ね」
空が青い。見上げたさきの浮かぶ雲には乗ってみたいなと思うほどの分厚さがある。
アイシャは新しい道具をお昼寝士の技能で作り出して、空と森を眺めながら、ふと疑問を口にする。
「ここから弓矢って届かないのよね?」
アイシャはエルフたちの方を見ながら言う。
「まあ、まともに狙えもしないし上手く風に乗れば届くこともあるかなと言った所だろう」
フレッチャは弓を構えるフリをしながら、やはり無理だろうなと答える。
「風に乗れば? それは魔術の風でも?」
「まあ、モノは同じだろうから可能性はあるのかもね。もしかしたら魔術の風の方が精度は高いかも」
「そうね。それもその魔術士の腕前にもよるだろうけど、真っ直ぐにしたり曲げたりも出来るかも」
アイシャはお昼寝士の技能で作った双眼鏡でエルフたちの動向を確認している。
「アイシャちゃん、それがどうしたの?」
サヤがなんだか気になって聞いてくる。
「エルフたちが……弓を構えて、魔術士っぽいのが何かしようとしてるから」
「え? アイシャちゃん、見えるの?」
「確かに、弓を構えているな」
「そうね。それに魔力の動きもあるわ。マイム、あれわかる?」
呼ばれてマイムはエルフたちの方を凝視する。マイムは匂いで適性を当てたりするが、見るだけでも何の魔術を構築しているかがある程度はわかる。
「あれは風……」
「ちょ? 本当にあいつら⁉︎」
「放ったぞ! くるっ、真っ直ぐに!」
マイムが言い当ててお姉さんがまさかと驚きフレッチャが矢の飛来を告げる。
間一髪、真っ直ぐに飛んできた矢は誰にも当たらず通り過ぎていった。
「なんてこと。こんなに正確に……それに威力もありそう」
ギルドメンバーもフレッチャもみんな驚きが隠せないが、とりあえずは凌いだ。気が抜けていたのだ。
──だが皆が安堵したその場にキィンッと甲高い音を立てて何かがぶつかる音が響いた。
それはずっとアイシャの腕を掴んでいたフェルパが抱くうさぎぬいぐるみの右目を捉えた音。
風の魔術はいくつかの直線でよこした矢とは別に、注意のそとから角度を変え飛来してフェルパに命中した。
「アイシャちゃん──」
フェルパ自身にこそ当たってはいないが、その威力はフェルパの身体を崖から宙に躍らせるほどだった。フェルパはアイシャに向けて手を伸ばす。
「フェルパちゃんっ!」
アイシャはフェルパの伸ばした手をしっかりと握り、2度目の紐なしバンジーへと旅立った。