遠くに見える侵入者
「なんかフェルパのなつき具合があがってないか?」
「そうね。まあぬいぐるみ効果じゃないかな」
フレッチャとサヤが目にしたのは朝からべったりのフェルパとアイシャの姿。
フェルパは先輩の後ろに隠れて歩いていたりと、そこも仲は良いのだが、アイシャとの場合は何だか距離感がおかしい。というか大体へばりついている。
アイシャにとっては幸いにして、フェルパもマイムもサヤたちが起きる前には服を着て歯磨きをはじめていた為にサヤたちに現場を目撃されることはなかった。
目撃されたのは自分の家でもないのに全裸で爆睡するアイシャだけだった。
歯磨きに立ったふたりに安心して寝てしまったせいだが、いらぬ誤解を招くよりはマシだったのかも知れない。と無理矢理に自分を納得させていた。
それからずっとアイシャとフェルパは一緒に行動している。
マイムは自分の将来の職場である魔術士ギルドの面々の見学に行っているため、フェルパによる独占状態はしばらくは続きそうだ。
「では既に話しておいた通りに10:00より開始する」
朝の準備を済ませた5人を含めた全員に通達され、あの丘……というより崖になっているところまで移動した。
「本当に見晴らしいいねー」
「いいねー」
アイシャとフェルパはずっと腕を組んでいる。
そろそろサヤの心に嫉妬の火がつきそうかなとフレッチャは静かに見守る。
「なかなか見えないかとは思うが、あの森の向こうでなにやら動いている人の団体がいる。本来ならこの森にはいないエルフたちだ」
アイシャの目にはごま粒ほどの何かが動いているふうにしか見えない。
「なるほど、聞いていた通りの特徴だな」
「フレッチャちゃんは見えるの?」
「あたしたちも見えているよ」
この距離で見た目の特徴まで判別がつくとは。アイシャは素直に驚き感心した。
「目が良くなければ弓など扱えないからね。まあ、弓術士の技能なわけだけど」
「あたしたち魔術士もそうね。必ず遠見の魔術は習うわ」
弓術士は素の視力を底上げする技能で魔術士は光の加減を調節することで見れるとのことらしい。
「ところであんな遠い所にいるのにどうするのさ?」
アイシャの疑問は尤もだ。普通に見ればごま粒。そんな遠くには矢など当たらないだろう。魔術も無理だと聞いていた。
「そろそろ時間だね。アイシャ、こうするのさ」
魔術士お姉さんは腰に左手をあて、右手を口元に添えて
「その森は我々人間族の領土である! エルフの民よ、ただちに立ち去るが良い!」
マイムは「おお〜」と言って感心しているがアイシャは驚きに固まっている。
「え? 呼びかけるだけ?」
繰り返すお姉さんを見て「平和だなぁ」と呟いた。