マイムの特技
「そういえばみんなもマイムに首の辺りを嗅がれたりした?」
お姉さんはアイシャたちを砦の外、明日魔術による牽制を行う高台へと案内しながら質問している。
「あー、あれお姉さんもされたんですか?」
「そうそう。あの子は不思議っ子でねぇ。初対面でスンスンされた時はびっくりしたものよ」
サヤの返事にお姉さんも答える。
「私もされたな。あれには何か意味があるんですか」
フレッチャもフェルパもされている。
「あの子はあれで“分かる”って言ったのよ。何がって聞けば私の適性も得意な魔術も見事に言い当てたわ。その気になればスリーサイズも分かるって言われたけど、それは勘弁してもらったけどね」
「へえ〜、そんなことできるんですね。魔術士はみんな、ですか?」
「なわけ。あの子の探究心がそうさせたのかもね。分かるのは魔術士に関連することだけみたいだけど」
「首の辺りを嗅ぐだけ」
アイシャは隣を歩くマイムを凝視する。
「そう。あたしの特技。魔術士じゃない人も魔力の保有量が分かる。あたしすごい」
「嗅ぐだけ」
アイシャの視線はマイムの瞳をロックオンして離さない。
「アイシャは特別。柔らかかった。甘かった。またする?」
アイシャはサヤの視線を感じた気がしてブンブンと顔を横に振った。
「遠慮はいらない。いつでもウェルカム」
マイムは顔を赤らめてアイシャを見つめて言う。
もちろんアイシャはヘタレて前を向くが視界の隅にアイシャを見るサヤが映ってかすかに震えていた。
ひときわ高い丘は、その先が崖になっていて落ちれば上がってくるのは苦労するだろうという所だ。少し間を開けて森が広がる。
「あのスィムバの森までがこの辺の人間族の領土なのよね。魔物もいるから住んだりするわけでもないけど、周辺各国との取り決めでこちらの領土にしたんだから、勝手に入られるのは上の人たちが気に入らないらしいわ」
「やっぱり魔物もいるんですね」
「だから落ちないでね。私たちのこの仕事は安全だと思うけど、勝手して落ちたら助けないからね」
「なぜ私を見て言う」
「あなたが1番意味不明だからよ」
「それも魔術?」
「マイムの真似なんだろうけど、ただの客観的事実よ」
アイシャはさっそくと手にしていた串焼き用の竹串を後ろ手にストレージにしまった。