屋台の味
馬車は北に抜ける街道を通り、分岐を左に進んで休息に入った。
「ここからまだ長いわよ。野営の支度を整えてそれぞれ交代で見張りね」
「あの、私たちは?」
サヤは魔術士ギルドの面々だけに向けられた指示を聞いて手伝わなくていいのかと問いかける。
「あなたたちは一応まだお客さんだからね。むしろ私たちが守らないといけないのよ。だから気にせずそこで……」
話をする輪の外ではいつの間にか屋台が出ている。
「ちょ、あなた一体何やって──」
「へいらっしゃい!」
頭にタオルを巻いてエプロンをしたアイシャはすでに野営屋台の設営を終えて火をつけていた。
「だから焼きそばはやめなって──」
「へいおまち!」
焼きそば屋台を止めようとしたお姉さんはアイシャの差し出したそれを受けて「焼きそばじゃ……ない、だと?」と大袈裟に驚いている。
「皮にねぎま一丁っ!」
「結局私たちもお金を払って焼き鳥食べてたなんて」
「いや、あれはしゃあねえわ。何なんだあの肉は、美味すぎただろ」
アイシャが何のものか頑なに教えなかった“肉”はその滴る脂も肉の味も塩加減までもが素晴らしくここの面々を虜にした。
「それに警戒は厳重にしていたとはいえ、狐1匹出てこねえのはラッキーだったな」
みんなで輪になってくつろぐその中に大きなクマのぬいぐるみを抱くフェルパがいる。アイシャに馬車の中で渡されて以降、誰が頼んでもそのぬいぐるみを手放すことはない。
「アイシャちゃんからの……プレゼントだもの」
頬を赤らめてそんなことを言われればみんな大人しく引き下がるしかない。
「いや、貸し出しなんだけど」
アイシャも困った様子だが、ショックを受けたフェルパの反応が心に刺さってしまったので、結局「代わりのものを用意するからそれはそのときに返してね」と納得してもらった。後で魔除けの中身のない別のものをプレゼントするつもりだ。
この見学会の移動と野営はそんな感じで過ぎて、アイシャたちは目的地であるスィムバの森近くの砦に到着した。
「まさかここまで何も出てこないなんて」
「焼き鳥のおかげだねぇ」
お姉さんの呟きにアイシャが答えるも「それはない」と切り捨てられた。
しかしあれがコカトリスの肉であり、呪い人形カーズくんの中身に加わった内容物であることを踏まえると、アイシャの言葉はあながち間違いではなかったのだ。