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揺れる着ぐるみ

 皆が思い思いの夏休みを終えて9月に入れば聖堂教育は再開する。


 それぞれに何をしたとかプールで焼きそば屋台をやっているお昼寝士を見たとかそんな話題で子どもたちの秋が始まる。




 それでもアイシャのする事は変わらない。


 一貫してひた隠しに隠しながらするトレーニングとお昼寝ばかりだ。


 お昼寝士としての責務かのようにお昼寝を日課としながらも、さすがに寝てるだけの生き物が衰退するばかりであるとも理解しているアイシャ。物理戦闘職があつまる聖堂武道館ではサヤたちも色々とやっているのだろうとは思っている。けれどそこに顔を出してみたりするのは違うともアイシャは思っているのだ。


 まず、アイシャが割り当てられたのはこの丘の東屋だ。アイシャの来る前まではたまに誰かがここで休憩していただけのスポット。見晴らしがいいだけの屋外。ここが居場所とされたのならそれはそうなのだろう。自由を愛するアイシャとはいえ、ここが学び舎(?)だと言われたなら、フラフラとあちこちに行ったりはしない。


 あちこちに見学に行って寂しいと思われるのもシャクである。


 そして自身がお昼寝士だからだ。誰もこの適性が何に分類出来るのか決めかねている。


 ぬいぐるみやベッドを作ったりするあたり生産系なのかもしれない。けど本人が毎日間違いなくするのは決まってお昼寝だ。メインのことではない。


 お昼寝は休憩だろう。けれど生誕の儀での鑑定でそう出たのであればもうそれは適性で将来の可能性のある職業なのだ。


 この“どこででも寝られる”そんな適性を誰がどう分類するかはアイシャを観察した人によるのだろう。寝ながら戦えたりすれば戦闘職か、他人をあやすガラガラでも作れば生産職か。


 アイシャを観察したひとによるそれは、あるいは魔術なのかも知れないとも。




「え? なに?」


 お昼寝館のマイベッドで仰向けにお昼寝中のアイシャの脳内に“寝ずの番”が警報を鳴らす。どんなに深い眠りについていても、脳内で覚醒を促すメロディはアイシャにしか聞こえない。


 けれどそれは今までのとは少し違う感覚。石が飛んできたり魔物がやってきたりとは違うその理由はすぐに分かった。


「わっ? ぶはっ! えぇー、雨?」


 口を開けたアイシャの顔目掛けて空から滝が落ちてきた。そんな局所的にいきなり降ってきた溺れそうな量の水の塊を人は雨とは言わない。おおよそ超常現象か奇跡か誰かの故意によるものだろう。


 顔とベッドだけがずぶ濡れになったアイシャは、その現象のあとからこのお昼寝館にやってくる人影に気づいた。


 ベッドのある東屋からお昼寝館の入り口、階段を上がったところに姿を現した人物は気だるそうに歩くが、体力の無さから階段をのぼってきただけで少し疲れているからである。


 背丈はアイシャとそれほど変わらないだろう。顔を隠すつもりがあるのか分からないが、白いローブは赤色の縁取りをしてあり、フードには垂れた耳みたいなのがぶら下がっている。


「なんで濡れてないの? それも魔術?」


 決して話すのが得意ではないのだろう。率直な疑問を投げかけた声に敵意はまったく感じられず、しかしその声音から立ち入ってきた相手が女の子であるとアイシャに知らせる。


 アイシャのお昼寝タイムは、このところいつも銀ぎつね着ぐるみパジャマで、マケリが言っていたように魔術耐性が非常に高い。


 そのパジャマのフードを頭まで被っていたアイシャの濡れているのは主に顔で、“滝のような水の魔術を放った彼女”からすればもはや濡れていないに等しい。


「いや、顔のとこからめっちゃ入ってきて中はパンツまでぐしょぐしょだからね?」


 パジャマは高い魔術耐性を誇り、直立状態であればコカトリスの石化させる息さえ丸ごと遮断していたが、重力に任せて落ちてきた水はそうはいかず、フードの開いたところから魔術の水はしっかりと侵入していた。


 高い魔術耐性はむしろ着ぐるみの中で腰までタプタプにしてしまっている。来訪者とは違う鍛えられた肉体を持つアイシャだからこそ、苦労することなく体を起こして来訪者を見据え、ベッドからおりることができた。


 いかに魔術耐性が高かろうが、気密性が高かろうが、立ち上がった裾からはひとすじの水滴も垂らすことなく、注がれた水で大きく下半身から胸の下までを膨らませることがあるのだろうか。


 それでも重さはしっかりあるようで、フードを被ったアイシャの首元は下に強く引っ張られ、なんならフードに引っかかった頭がのけぞるのに逆らう姿勢で首が鍛えられそうだと思うほどだ。


 横に、大きくなったアイシャのシルエットは、足を踏み出すたびにゆらゆらと揺れ動く。大量の水の慣性に耐えうるフィジカルもアイシャの普段の努力のたまものだが、魔術士の彼女にはやはり率直な疑問が浮かんで口から漏れ出るだけだ。


「お昼寝士の子ってこんなにデブだっけ?」

「わかってんだろ」


 本当にわかってない魔術士っ娘と水風船のように膨らんだアイシャの出会いであった。



魔女っ子登場ですね。

魔術士ギルド職業体験編?少し続きますが退屈しないくらいには出来たと思います!


これからもよかったらファイブなスターやナイスなコメントをお願いしまっす!

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