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水難事故

 アイシャは笑顔でフェルパを見守る。こてを手に焼きそばを作りながら流されるフェルパを眺める。


「風流……ソースが焦げる香りと水上のフェルパちゃん。ずっとこっちに手を振ってくれてるんだもんなぁ」


 フェルパの追求から逃れるため、ボードから飛んで屋台に戻ってきたアイシャはひと仕事終えて爽やかな汗を光らせながら捨てた子犬を眺めて意味不明なことを口走るサイコと化していた。


 大人しい系女子をひとり放流してアホの子がその場を離れるとボートの周りには自然と人が集まってくる。穏やかに、困り顔で手を振るフェルパのボートにやがて1人、2人と乗ってきて、フェルパがプールサイドに避難したのがアイシャにもしっかりと見えた。


(あちゃー。まあそのうちそんな事になるだろうなとは思ったけど)

「……アイシャちゃん、ごめんなさい。ボート取られちゃった」


 しょげているフェルパに鉄板の隅で焼いていたイカ焼きをご馳走しながらアイシャは「まあ、いいよ」と返事する。意外にも溺れるなんてこともなく、慌てず騒がずの精神で静かに水から上がって、まっすぐアイシャの元に来たフェルパは頭までずぶ濡れで、アイシャのコテをおいて優しくタオルで拭いてあげている。


 まるで雨の中、捨て犬を拾って世話しているような光景だが、捨ててきたのはこのアホの子なのだから自業自得かマッチポンプか。


 そうこうしているうちに元気な男の子連中に取られたボートは今や無頼の悪ガキの溜まり場になってしまっていた。


「男子ってほんとこれだから嫌よね」


 フレッチャもその一部始終を見ていたらしく近くにきてアイシャからイカ焼きをもらう。もらって口に咥えながら、フェルパの濡れた体を拭くタオルが増えた。アイシャのフレッチャのそれぞれから体を拭かれるフェルパはもうすでにボートを奪われたことなどどうでもいいくらいに幸せである。


「まあ、そうだね。じゃああいつらにイタズラして終わりにしようか」


 アイシャがそう言い手を叩けば屋台はそのままストレージに落ちるようにして消えた。


「イタズラ……?」

「まあ見てなって」


 そう言ってエプロンを外すアイシャを見て、フェルパは今まで体と頭を拭いてくれていたタオルが、ずっとアイシャの頭に巻かれていた汗まみれのものだと気づいて顔をひきつらせた。




 プールサイドに寄ってアイシャが男子たちに呼びかける。


「こらーっ。それはフェルパちゃんのでしょうが」

「あ、アイシャちゃん、わたしのじゃ……」


 普段から隠れていたいフェルパは名前が出た事にびっくりして抗議したいけど出来なかった。仁王立ちで男子たちに物怖じすることなく指をさして文句をつけるアイシャの声のまえにフェルパの小さな声などかき消えてしまう。


「うっせー、ぶす!」

「これは俺たちのんだよ、バーカ」


 生意気盛りな男子たちはボートの上であかんべーしたり中指を立てたりと我が物顔である。接岸するわけでもない距離は、アホな男子たちを強気にさせ、アイシャたちが近づいたところで逃げる気満々なのだろう。


「あいつらムカつくねー。弓で穴だらけにしようかしら」

「ムカつくけどそれするとフレッチャちゃんの未来が閉ざされるよ」


 悪ガキの暴言に怒るフレッチャだが、アイシャはフェルパが避難した時から既に怒っている。なにせ穏やかな笑みを浮かべながらただひたすらに上品に手を振っていたフェルパの振る舞いは皇族のそれであった。そのフェルパから奪い去って悪態をつくなど、その時点で不敬罪といえるのだから。


「忠告はしたよね? まあ、伝わってはないだろうけど」


 アイシャは両の手のひらをパンっと合わせて唱える。


「“パージ”っ」


 それはお昼寝士で作った物の一部に適用されているシステム。


 構造的に分解することのできる物はこれでその形を崩す。ベッドなら木組みは木材に、布団は布地と中身に、ぬいぐるみであれば中身を破裂させてバラバラになる。


 そしてこのボートの場合は吐出口から空気が一気に抜ける。


 謎のお昼寝士が作った謎のボートは、その中に圧縮空気でも詰めていたのだろうかというほどの勢いで空を飛ぶ子どもたち。突如加速し、水面を走ってプールサイドに乗り上げ跳ねたボートから子どもたちが逃げ出す暇などない。


「ちょ、あれ私たちの方に飛んできてない?」


 ミサイルのように向かってくるボートに焦る魔術士お姉さんたち。子どもたちは声をあげながら助けを求めている。


 子どもたちを飛ばしたミサイルはすでに形を失い、自動でストレージへと送還されている。凶器なき犯罪の成立だ。


 悲鳴とともに子どもたちが飛んだ先は魔術士ギルドのプール待機所。ここで事件や事故があれば魔術士ギルドの責任が問われることになるだろう。


 悪ガキたちとイタズラという名の私刑と大人の責務。慌ててつくられた水の障壁に突っ込んでお姉さんたちもろとも絡まる男子たちの塊がそこにはあった。



アイシャの屋台は手作りです。

さすがにお昼寝士の技能としては組み込めませんから。

思いつきを実行するために1から組み立てる屋台。

この世界にはソースだって醤油だって塩も砂糖もちゃんとあります。あとは文化としてその食べ物があるかどうか、ですね。カレーも豚カツもあるのに焼きそばがないとか?

ま、まあ気にせずいこう!


良かったら感想や評価も遠慮なくください!どんなでも結構ですが、やっぱりいい評価が嬉しいです!

このあとも続きますのでよろしくお願いしますね!

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ、本当に悪いガキ達ですね。。。
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