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予感

 オユン大砲が打ち上がる様はアイシャたちのところからもよく見えた。


「さすがはドロフォノスさんですね。圧倒的です」

「そ、そうだね……」


 目を輝かせるミラとはちがい、殺風景な地下空洞のリフォームをはじめたのがトカゲのタロウくんであることを肌で感じているアイシャは素直に喜べない。


 地龍の息子のタロウくんがいずれは立派な龍にミラクルな成長を遂げるにしてもアイシャのそばに連れているうちはただのトカゲであって欲しい。


 一部──精霊術士のエスプリやバラダーあたりにはただのトカゲなどではないと知られているフシがある(その記憶もしっかりと薄れて消えてるはずではあるが)が、それを除けば海での珍事の時でさえ誤魔化し通していた正体を、その実力をまさか普段のトカゲの姿で奮っているのだとしたらアイシャも気が気ではない。


 それどころか、今は興奮したラプシスとの一騎討ちまでしているなどと知ったらいよいよ叫んでしまうかもしれない。


 オユンたちの群れに阻まれて遠くのラプシスたちがどうしているかなど、肉眼で確認するのはかなりの視力が必要だろう。黄色く光るだけのトカゲを目で追い続けるとなるとなおさらである。


 それでもタロウくんの動向が気になるアイシャは目を細めて集中する。見えないものを見ようとして、そうして発揮されるのは普段は発動していない魔力視のチカラだ。


 やがてアイシャが見る世界に映し出されて見えたのは人間のミドリとラプシスの、平均よりは多いであろう魔力のゆらめきと、小さな体には到底押し込めきれていないタロウくんの魔力の奔流だ。


 おそらくは味方との戦闘を避けようとするタロウくんと、構わず食らいつこうとするラプシスの魔力が時折ぶつかっては岩に当たって弾ける波しぶきのように宙を彩る。


 強烈なぶつかりだったのだろう、ラプシスは大きくノックバックされ、魔力がトカゲ大にまで小さくなったタロウくんがさらに距離を取る。


 そうするとまたタロウくんの魔力は大きくふくれあがり、いくつかのオユンを立て続けに天井にブッ刺していき、少しするとまたラプシスの魔力がタロウくんに襲いかかる。


(ラプシスさんは本当にジャンキーなんだね。絶対にかないっこないって分かっているはずなのに)


 アイシャが本気で殴ってもタロウくんの硬さと特性を持ってすれば今でも負けるのはアイシャのほうである。


(タロウくんは戦わないときは魔力を小さくして器用に隠してくれてるんだね)


 そんなところに関心するアイシャだが、これも実のところかなり重要なことである。というのもアイシャとは違い常時魔力視を使っている魔術士マイムには見た目を変えるばかりでは誤魔化しがきかないからだ。


 そうした新たな気づきはアイシャに更なる気づきをもたらす。


 目ではタロウくんたちの動きを確かめることが出来ないほどに群れとしてアイシャたちをとりまくオユンがいるはずなのに、魔力視の世界では実によくタロウくんとラプシスの動きが見えることに。


「オユンって……なに」

「え。それはイタズラ妖精なんじゃないの。ほら今もぼくたちに向かって……あ、女王様つぉい」


 ミラが言ったように女王様テオと大臣マルシャンのコンビがとてもではないが文字に起こせないような罵倒とともにオユンのいくつかを蹴散らしたのが、アイシャの魔力視でもわかる。


 やはり火花のように散った魔力はやがて地面に落ちていく。


 アイシャがいま見ているのはそんな光の世界を現実の視界に重ねているようなもの。そのなかでタロウくんもラプシスもミドリも、隣にいるミラだって女王様もルミも全部、個別の体内を中心に揺らめく光を持つのに対して──。


「全部、生えている」

「アイシャちゃんはまだだって聞いたけど」

「あ、や、なんで……いや、そうじゃなくって──っ」


 アイシャの成長は皐月の勝手により止められていてまだ女の子の日すら未経験である。


 シャハルの一員になって日が浅いミラが誰から聞いたのか、アイシャとしても非常に気になることではあったが気づいてしまった今となってはそれどころではない。


 個として完結している人間たちのそれとは違い、オユンたちの魔力は揺らめくことすらなく、塊でさえなく、足下から頭部、両腕へと伸びてめぐる血管のようであった。


 全てのオユンがそうであり、だとするとその元をたどるとどうなっているのか。


 視線を下に落としたアイシャは見てしまった。それだけに言葉を詰まらせて息をするのも忘れてしまうほどの驚きと嫌な予感が押し寄せてくるのを感じずにはいられない。


 大量のオユンたちに魔力を巡らせているナニカの存在に、アイシャは気付いてしまった。


 おおよそ地中深くにいるであろう魔力の塊が地表の無数のオユンたちに繋がっているのが目で見てわかり、同時にいま必死に退けようとしているオユンたちが個として存在する生き物ですらないことも察してしまう。


 地面から生えた土人形。それを動かす魔力すらも地面から生えていて、ミドリたちが倒すたびに土人形は形を崩して魔力の糸は地中へと引っ込んでいく。


 さらには衝突して弾けて地面に落ちる魔力の残滓までもが取り込まれて地中深くの何かに注がれていくことまで、アイシャは見てしまう。


 ルッツの“リスカ”で派手に消費した魔力も、ミドリたちが消耗する魔力も、ラプシスがちょっかいをかける度に大きく弾けるタロウくんの魔力も、その全てが地中に飲まれて到達する。


 ここにいる最大戦力である亜神の息子タロウくんよりも大きく、静かに脈動する魔力の塊へと注がれていく。


「……アイシャちゃん?」


 地面に釘付けになったアイシャの様子に気付いたとしてもミラには理解出来ない。


 そして理解する必要もなく、舞台は終盤へと突入していく。



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