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歓喜の渦、渦中のアイシャ

 回る、回る、プールが回る。


 ノリノリで泳ぐアイシャと流される客たち。


 そして水の魔術を行使するお姉さんと、釣られてやってきた同僚たちの悪ふざけともいうべきお手伝い。


 次第に流れは速さを増していき、全力のアイシャがどんなに頑張っても後ろに進んでいくようになった頃にはみんな大変なことになっていた。


「あれ⁉︎ これはっ!」


 泳ぎ続けるアイシャの手に流れてきて絡まったのは、どこかで見た水着。自分のと同じデザインなのに、部分的にサイズが違うかわいいワンピースタイプの水着。


「いまっ! サヤちゃんが通り過ぎた? それも裸で⁉︎」


 この世界に生きるみんなはそれなりに強い。なかなか溺れもしてはいないが、それでも一部流されるままになって水着が脱げている者もいる。


 サヤだけでなくあっちの子も、こっちの子も。


 ザアアッと流れてくる中にアイシャは再び裸のサヤの姿を見つける。


 溺れたのだろうサヤの意識はない。裸で。


 アイシャは人命救助をする決意をかためる。だがその前にするべきことがある。


「男は見るなあっー!」


 必死のアイシャは水面を駆けて手当たり次第に男も男の子も蹴り飛ばしてプールサイドの一角に集める。そしてその周りには今や学校の怪談となった、“お昼寝士”の快適睡眠用である“睡眠導入ぬいぐるみ”たちで囲んでしまう。


 並んだそれらは謎の魔法陣を構築し、集めた男たちを即座に眠りにつかせた。


 それだけするとアイシャは回るプールでかき回される女子たちを助ける。こちらは丁寧なお姫様抱っこだ。


 幸い殆どが意識を保っていて、もれなく裸で意識を失った女の子たちはかためて並べてから「マウストゥーマウスを実践するから真似てやって欲しい」と無事な女の子たちに働きかける。


 アイシャがする実演の相手はもちろんサヤだ。


 ここに至るまでまだ2分ほど。必死に掘り返した断片的にある生前の知識であれば全然間に合う時間だが気は動転している。


 心臓に手を当て耳をあて鼓動を確かめて、その膨らみに嫉妬してペシンとはたいてしまう。ぷるるんと揺れた小山を見て軽く舌打ちしてしまう。


 周りも一拍遅れて真似て、ペシンっという音が連続する。


「気道確保っ!」「「気道確保っ‼︎」」


 仰向けに寝かせた相手にする気道の確保は、見方によれば官能的な顎クイにも捉えられる。そしておもむろにアイシャはサヤの唇を奪う。


 辺りからキャーキャーとハートのついた声が上がる。男子が昏倒して女子だけになった空間にはなまじ遠慮というものがなく、アイシャたちを中心とした世界はリリーの幻想が浮かぶ甘いものとなる。


 アイシャはサヤの唇を塞いですぐ、ぷーっと息を吹き込み呼吸の回復をはかる。心臓が止まっているわけでもないからひたすらに口づけならぬ人工呼吸の繰り返しだ。実演の甲斐があったのだろう、あちこちで息を吹き返すのが伝わる。


(なんでサヤちゃんは目覚めない⁉︎ どうして私は吹かずに吸っている⁉︎)


 ついつい違うことをしかけて我にかえるアイシャ。


 正気になったアイシャのくちづけでやっと息を吹き返したサヤは、水着や裸の女子に囲まれて拍手される中で自分も裸という謎のシチュエーションに戸惑い、傍で顔を背けて頬を赤らめるアイシャに気づくと抱きついて周りを嬌声の渦に巻き込んだ。


「アイシャちゃん、何故か私は裸でなんかすっごい夢を見た気がするの」

「気のせい……それは気のせいだから」


 未だ一糸まとわぬ濡れたサヤが首に手を回して抱きつき、目覚めたばかりの潤んだ目でアイシャを下から見上げる姿にアイシャの中で暴れる『彼女』がいた。そしてそれは何も『彼女』だけでもない気がしてこれ以上はいけないと思い、アイシャはどうにかサヤを引き剥がす。


「……もうっ」


 サヤはちょっとだけ拗ねて見せたが、残念ながらそれ以上の発展はなかった。





 半狂乱で止まらない魔術士たちにはアイシャが“おやすみ三角帽子”を乗せて強制スリープさせて、山にした男子はぬいぐるみの回収だけして放置しておいた。


 夢の中で記憶が曖昧な男子たちによってプールには魔物が棲むなどという噂が立ち、女子たちの間にだけこの日の甘い秘密の花園の記憶が語り継がれた。




勢いだけの回。フィクションの中のさらにフィクション。くれぐれも人命救助は正しいやり方を学んで実践してくださいね!

ばかばかしくても良かったと思えたならいいねやお星様くださいっ!アイシャも頑張りますから!

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