夏は水浴び
聖堂教育にも夏休みはある。
激しい運動量となりがちな戦闘向きの適性の子どもが多くなりがちで、それは育てる大人たちももちろん同じなのだから、真夏のうだるような暑さにやってられるかと8月いっぱいはきっちりと休みだ。
なので職業体験が可能となるアイシャの学年からはこの夏休みというのは、この機会にそれぞれに気になっている職業のギルドへと足を運んでみる子どもらであふれる。
「サヤちゃん、プールいこ!」
この世界にも海はあるのだが、魔族や魔物が跳梁跋扈する世界で裸同然の姿で海水浴など出来るはずもなく、そんな文化は存在しない。海に行けば陸に生きる人間族はどうしても海の魔物に遅れを取る。魔物除けを施したうえで漁業が行われるのがせいぜいである。
しかし暑いなら水に浸かっていたいという欲求は同じで街の遊戯広場と言われる広大な敷地はこの時期、魔術士ギルドのお祭りみたいになっている。
「これを1週間で作るんだもんね。魔術士ってすごいよね」
アイシャとサヤが感心したのは、もともと芝生の生え揃った広場から遊具を撤去し、芝生は1m四方に分けて剥がしたのを重ねて保管し、剥き出しの土地を掘って固めて程よい深さと広さを確保し、表面を建材で覆ってプールを作ったのちに、近くの川の上流から水を引っ張ってきて仕上げてしまう魔術士ギルドメンバー諸氏の技能についてである。
「そんな特別なことをしていたとは知らなかったなぁ」
「それも聖堂教育で教わったからだね」
男女にわかれたロッカールームの棚は鍵が付いていたりするわけでもなく、開けっぴろげの棚にそれぞれ自分の着替えや荷物をまとめて置いておく。
「みんなが忙しくしてそうな時にあえてのプール!」
すっぽんぽんになったサヤのテンションがちょっとおかしい。
「大丈夫? 暑さにやられてない?」
「平気平気! さっ、いこ!」
「いや、水着きなよ」
やはり暑さで脳みそが溶けたのかと心配になるアイシャ。
(まあ、だからこそ余計に連れてきて良かったよ)
周りと同様に真面目なサヤは夏休みに入ってからあちらこちらへと職業体験へと足を運んでいる。
それはひとりでだったりフレッチャや他の戦闘職メンバーとだったりする。ちなみにアイシャはこんな暑い季節にそこまで活動的にはならない。当然お昼寝して過ごしている。
そんなお昼寝ガールアイシャからすれば精力的に動くサヤは日増しに疲労を溜めているように見えた。それは真夏のグラウンドでスポーツに励む子どもたちが熱中症にでもなるような光景に見えて、たまにはと誘ったのである。
「そういえばパジャマパーティもずいぶんしてないからご無沙汰だったけど、アイシャちゃんちょっと大きくなったんじゃないの? どこがとは言わないけど」
「おおい⁉︎ こんなところでやめっ……」
サヤと違い身長の伸びないアイシャのどこがなど言うまでもなく、それどころか「隙あり」と後ろからピッタリとくっついて揉みしだくサヤはいよいよ暑さにやられていたのかも知れないと思うアイシャだった。