戦えないお昼寝士
「フレッチャちゃん、あっち!」
「おっけー、サヤ。任せて」
扱う武器こそ違えど聖堂武道館で鍛錬する2人はそれなりに仲が良く連携も問題ない。今もサヤが見つけた茶色の狐をフレッチャが遠距離で仕留めたところだ。
すでに茶色の狐ばかり4頭を狩ってふたりは担いでいる。アイシャのストレージという手もあるが、サヤたちがそれをお願いしてこないのであればアイシャからわざわざは申し出ない。
それはまるで自分が荷物運び以外出来ないと言うような行いだとアイシャ自身それを嫌う傾向にある。なので目当ての地這鳥意外の狩りなどは任せっぱなしのアイシャは、先ほどから道端の綺麗な石や草、美味しそうな木の実の採取などをして散歩気分だ。
「地這鳥の生息域までもう少しかな」
「どんな鳥かな。楽しみだね」
フレッチャが地図を見ながら呟きサヤが相槌をうつ。アイシャは珍しい蝶々を追いかけている。
「お昼寝士は相変わらずのんびりね」
アイシャ発端のこの探索行動には、以前に職業体験でお世話になった冒険者ギルド職員のマケリが同行している。
子どもたちが街を出る時にはギルドに外出の申請をして、職員の同行を願い出るのだが、他の知らない人ではなく彼女が付いてきてくれたのは、マケリの少しだけ下心あるおせっかいである。
これはあくまでも“マケリをリーダーとしたグループの狩り”という体裁で4人でのパーティ行動だ。
「まあ、地這鳥なら狐レベルだし問題ないとは思うけどね」
鳥も狐もランクはD〜Eだ。鍛錬を続けてきたサヤたちの年代であれば男子も女子も十分に対処できるレベルである。
平均的な戦闘能力を持つサヤとフレッチャを見てマケリも安心して見守るだけに徹することができる。両手にしっぽのようなものを持ってフリフリ歩いているアイシャだけは気がかりだけれど概ね順調に進んでいる。
「サヤちゃんもフレッチャちゃんも聖堂教育が終わればうちに来ない? もちろんアイシャちゃんも」
前回の謎の銀狐狩りで気心知れた子たちだ。マケリはサヤたちが女の子たちであることからももっとよく知り、身近な仲間に入れたいと思っている。おまけのように呼んだアイシャが本命であることは内緒だ。マケリはまだ銀狐フルセットを諦めきれていない。
「私は別の道を探すかも」
本命のアイシャに1番にフラれてしまったマケリ。しかしサヤとフレッチャはまんざらでもない。というより誘われるまでもなく戦闘職適性のサヤたちが冒険者ギルドのお世話になることは既定路線と言っても過言ではない。大人になる頃によほど別の道を目指さない限りは。
「ベイルも私もこの街の周辺ばかりだけれど、それはそれで大事な仕事なんだよ。遠くの脅威より身近な危険を排除する方がみんなの生活に直結してるからね」
なるほどと頷く2人としっぽを振り回し羽ばたこうとするアホの子。腰の位置で上下に振るしっぽの動きは無駄がなく到底目で追える速さではない。
「さあて、そろそろお待ちかねの地這鳥のテリトリーだよー」
おかしな動きのアイシャが少し浮いているような気がして目を擦ったが、再び見たアイシャの足がちゃんと地面に接しているのを見て気のせいだと分かってマケリは「さあさあ」と3人を促した。