伝説の剣
「色々と語弊があったように思える」
「でもサボって2人でお昼寝してたんだよね。裸で」
「いやー、裸だったのは私だけなんだけどねー」
ご飯を済ませたあとのお昼寝館での一幕。
基本的に食べたあとも食堂で時間ギリギリまで喋っているふたりだったが、せっかく“仲良く”なれたフレッチャも交えてアイシャのベッドの上で話そうとなった。もちろんサヤから言い出したことである。
「アイシャはずっと寝てる割にいいカラダしてるよね」
「また語弊があるように思える。わざと? ねえわざとなの?」
「こんなところで昼間っから何してたのふたりとも……」
フレッチャの発言にワナワナ震えてるサヤ。
「アイシャ(のパジャマ)がすべすべで気持ち良くってずっとなでてた」
「え、えぇぇ?」
「ちょ、フレッチャ──」
「アイシャも私を抱き枕にしてた」
「はわゎ、なにそれぇ」
顔を真っ赤にしてサヤは恥ずかしがりながらも想像してしまうことを止めれない。あられもない姿でふたりはくんずほぐれつ……。
「そっ、そんなことまで──っ」
「まあ最後は冗談なんだけどね」
「最後以外は本当だったんだ……」
(なんだろ。なぜ女同士で修羅場みたいになってんだろう。そして何故私の中の『あなた』は嬉しそうなの)
フレッチャが否定することでサヤの妄想には歯止めがかかり、くっきりはっきりと浮かび上がっていた映像はかき消えて、サヤを安心させつつも残念な気持ちにさせた。
そしてこの日の午後には “たまたますっぽ抜けた” ブロードソードを探しにきたサヤが、お昼寝館に迷いなく訪れアイシャの布団に伝説の剣のごとく刺さっている剣を見つけて “つい” 布団の中に潜って “いつの間にか” 服を脱いだ下着姿になって中の住人を捕獲していたと言う。
本人曰く “気づいたらそうなっていた” そうだ。
「それはともかくこのお布団は剣が刺さっていたのに穴も開いてないのね」
「軽い疑問みたいにしないで? 横向きに寝ているお腹の前に突然何かが突き立った私の衝撃を軽く見ないで?」
実際には刺さってもいないし突き立ってもいない。剣はその布団の柔らかさに包まれて直立していたのだ。
“寝ずの番”の突然の発報から間を置かずに空から飛来した剣に、サヤが回収に来るまで怯えて動けなかったアイシャの不安は本物だったが、サヤの疑問に思うところは先日の森のそれと同じだった。
「この裏地の銀色。やっぱりこれって例の銀狐よね?」
「ううん。脱色したやつを銀色で染めただけ」
「ふう〜ん」
サヤの疑惑の眼差しを見る限り、どうやら誤魔化しきれていない。
「そ、それになんだかんだ銀狐だって剣でも弓矢でも仕留めれてたよね?」
たしかマケリが言うところでは相当の耐刃性があったはずなのに銀狐はマケリの短剣はおろか子どもの剣や弓矢でいとも容易く仕留められた。もちろんアイシャの蹴りでも倒せる。
「それは加工したあとの話らしいよ? 生きてる銀狐の毛はそこまで密度も高くないから斬れるし突けるとか」
「へえ〜」
「なのにこのお布団は──」
「“アーリン”」
アイシャが布団を身体に巻き付けて例の言葉を唱えると、布団は粉微塵になって辺りに散らばって器用なことにそのままストレージに吸い込まれていく。
その中には銀ぎつね着ぐるみパジャマも混ざっていて残されたのはベッドに腰掛けて見つめ合う下着姿のアイシャとサヤのみ。
「あ、えっと……」
「…………」
「えっとぉ……」
「………………」
無言の圧をかけるアイシャ。
玉砕覚悟のその気迫に押されてサヤはこれ以上の追及を諦めた。頑ななアイシャの態度に気まずさや罪悪感を覚えたわけではなく、半裸でまっすぐ見つめてくる幼馴染に今さら照れたせいではあるが。
そしてお互いに冷静になったあとは速やかに服を着て家路に着いた。