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強くなる

「ふかふかの羽毛に羽根。これだけあれば何かしら出来そうよね」


 それはアイシャ劇場が始まる前のこと。


「例えばこんな風に手に持って飛んでみたり?」


 フェルパは両手に羽根をいくつか持って羽ばたいて見せるが、当然浮く気配すらない。


「それも出来たら面白そうだけど、今は──ウラちゃんはフェルパちゃんと一緒に居られなくなったら嫌だから頑張ったんだよね?」


 翼の根元が食い込んで擦れて血まみれになるほどに。


「ウラは別に、そんなんじゃ……」


 ひしっと抱きしめるフェルパの温もり。アイシャの家でもよかったのだが、すでに謎の精霊とトカゲを招き入れているのだ。両親にこれ以上の謎生物を引き合わせるのは気が引けるとのことでフェルパがギルドの許可証を携えて連れ帰っていた。


「──ウラは、みんなと一緒にいたいです」


 ウラの気持ちは十分に伝わっている。アイシャもそのためにしてやれることならと羽根を手に取り考えたのがアイシャ劇場である。




「なるほどの。その結果としてあのウラという魔族は受け入れられるのじゃな」


 アイシャたちが騒ぎを起こしてウラがそれを収める。とんだマッチポンプではあるが、話を聞くおじいは責めることもない。


「おじいは分かってると思うけど、今回は私が敵とはいえ、魔力を扱う相手との実践訓練が出来たはずよ」


 そう、あの場にいた誰もがアイシャたちに手も足も出ない状況。その中でどう立ち回るか、出来たこと出来なかったこと、これからの目標。おじいがその威を示すだけでは得られなかった効果。


「サヤちゃんにもフレッチャちゃんにも驚かされたのう」


 とりわけサヤに、である。フレッチャはハナから使えると分かっていたものの威力が目に見えた驚きと、その意気込みがおじいの新たな発見となった。


 しかしサヤは普通の頑張り屋さんの域を出ることは無かったのだ。今朝までは。


「あの剣はアイシャちゃんが作ったとか?」

「サヤちゃんの、だよね。でもなんで魔力を斬れたのか……」

「そういう剣を打ったんじゃないのかい?」


 ただの物理攻撃以上のものであればこの世界でそれは特殊なエンチャントを施された一級品、もしくは魔剣である。


「そんなつもりは無かったけど」

「そんなつもりがあれば出来る、のかい?」

「うっ……」


 おじいの目は開いてなくとも厳しい。そうすることでアイシャのしたことが特別であり、アイシャ自身が知られたくない情報のはずだと知らせている。


「まあ、今さらなのかもしれんの。カチュワちゃんの大楯も特殊な素材だというし」

「あれは、ね。素材が特別なだけで、ただそれだけの盾だよ。サヤちゃんのは普通の素材なのに普通じゃないんだから」


 この日の朝の出来事が共通座学の時間を自習にさせてみんな各々に活動している。アイシャは保健室に運ばれてから抜け出しておじいとお茶をしながらウラのことについて頼むつもりである。


「アイシャちゃんの騒動のおかげで、あの場にいた子どもたちは強くなる。それは間違いなかろう」


 だからウラの事は任せろと言ってくれる。


「それともうひとつ、じゃな」

「フェルパちゃんのことね」


 今回の件で進展したのはウラの仲間入り、サヤやフレッチャをはじめとしたみんなの魔族戦への意識。そして戦力外だったフェルパの参戦、である。今も保健室で寝息を立てているフェルパは未だに意識を失ったままだ。


「あの魔術については聞いているからの。それにしても聞いた話とは随分と違ってはおったが」

「今回はいろいろオマケしてたからね。実際にはあんな風には出来ないと思う」


 そばにずっとアイシャがいて助力し続ける。アイシャ自身が整えた限定された舞台でもなければ中々実現は難しいかも知れない。


「それよりもあの服はなんじゃ。斬った感触がなんとも気持ち悪いものでの」

「あれを斬れたんだからそれだけでも凄すぎるんだけどね──」


 アイシャは言いながらストレージからその素材を取り出す。


「ウミウシの魔物の外皮、とでもいうのかな。今回は胴体だけに使ってほとんど動かないから着れたけど、まともに服にしたら皮膚が捩れるほどにどうしようもない素材よ」


 手渡された素材をおじいは珍しそうに摘んで引っ張って裂こうとするがまったくどうにもならない。


「なるほど。ギルド職員たちも歯が立たなかったという例の……」


 それを限定的でも加工して鎧としたアイシャはなおさらおかしいのだが、おじいはもうそんなことは言うつもりはない。


「それにウラちゃんの羽根とかね。正直楽しかったわ。顔も出せない声も変えなきゃって。でも、匂いはさすがに盲点だったなぁ」


 サヤに一瞬でバレたかと思ったアイシャのアドリブのせいで、魔族は死んで消えましたと終わらせるつもりが、食べられた2人は倒した魔族のお腹から出てきましたに変えることになった。


「マイムちゃんにも、やられたなあ」

「あのえっちい女の子、か」


 おじいの目にもフレッチャとマイムの魔力の色が混ざり合うようにして見えたあれが何をしているのか分かったらしい。


「アイシャちゃんたちは──なんだかんだで良いパーティになるのかも知れんの」

「──そうだね」


 サヤはまだこれから磨かなければいけないし、カチュワも守り一辺倒を変える必要がある。


 フレッチャは勝手に頑張って伸びていくだろうし、フェルパの存在感もこれからは違ったものになる。マイムは特殊な性癖をどうにかしないとお外に出せなくなるかも知れない。


「全部アイシャちゃんがしでかしたこと、かの」

「むむぅ……」


 まるでアイシャに責任があるかのようだが、おじいはアイシャの“おかげ”で彼女らが居場所を、存在感を手にできたのだと言う。


「ところで、さっきの素材じゃが。あれで木人形みたいなのをこしらえては貰えぬかの?」

「おじいの頼みなら。厚みは変えられないからそれこそ丸太に巻き付けるとかになるけど、それでよければいくつか用意するよ。修理もできるから言ってくれればいいしね」


 頼み事には対価がつきもの。果たして頼んだのはアイシャの側かおじいの側か。


「ありがとうのう」

「私こそ、ありがとうね」


 立場も年齢も違うこのふたりはおおよそ対等で対価がどうのという間柄でもなさそうである。




 昨シーズンと同じく冷え込む朝に剣神を囲むように並べられた木人形たち。


 それを誰が用意しているのかを子どもたちは知らないが、どんなに頑張ったところで傷ひとつつけることのできないそれは時折撤去されてはまた配置されている謎の木人形。


 サヤが全力で斬り込んでも、フレッチャが遠慮なく魔弓を射ちつけてもびくともしない木人形。


「──ふうぅっ!」


 目の前の一体を横薙ぎに斬り捨て、左の一体に踏み込み斜めに上から両断する。


 振り向きざまに下から振り上げた剣は、ひとつ空けて向こうの木人形に雷撃を放って焦がし、いま順番を飛ばした一体をさっきとは逆からの袈裟斬りで真っ二つにする。


 円の反対側に位置する木人形に飛びかかり振り抜けば、真ん中からふたつに分けて最後の一体を最初と同じ横薙ぎで上下に斬り分ける。


 剣神はアイシャ特製の木人形でその剣技の冴えを取り戻し、アイシャとのたまの対人戦も行いこの歳にしてかつてないほどのベストコンディションを手にすることになった。


 そんな冬のある日に街に降り注ぐものは白い雪ばかりではなかった。


「──どこまで、やれるかの」


 それはもう少しだけ、後のお話。


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