寄り道の魔術士っ子
初めは左の大振り。その威力を体感しているサヤは今度は受け流すようにしてしのぎ、回転して同じ方から振るわれる右の翼はそのまましゃがんでやり過ごし、帰ってきた左の翼の下から斜めに振り上げた攻撃に当たり激しく転ぶ。
「隙ありっ」
間髪入れずに斬りつけた剣神の攻撃にアイラは後ずさり、翼で巻き起こす風圧でおじいを牽制。そんなふたりに勇気づけられた子どもたちもアイラに果敢に挑むが、その全てがアイラの翼でかるく撫でられ転がされる。
「今度こそっ!」
あちこちを土まみれにしたサヤが迫ればアイラの奥義“大翼5連撃”(両手ぶんぶん)が見舞われる。
「くうっ!」
左の振り上げをかわせば今度は右の振り上げに弾かれる。
「まだまだあっ!」
右の振り上げもクリアすれば最後には交差した両の翼でクロスに叩きつけられ、サヤもさすがに脚に来ている。
「もう、限界っぽいなりね」
サヤのカバーに入った剣神も弾かれて、カクカクする足元はおじいちゃんそのものである。
「ここで、私が倒れるわけには──いかないっ!」
サヤの根性での突進。アイラの奥義は途中まではもう見切っている。最後のクロスももう少し。
パキッとフエラのお守りが発動してフレッチャが肩で息をしているのが目に入る。
「そこの弓使いは打ち止めのようなりなっ」
フエラの言葉に悔しげな顔を見せるフレッチャ。他の子たちの弓矢は悉くアイシャの障壁で流されてしまう。カチュワの守りも、それを支える仲間も息が切れて膝をついている。
圧倒的な威力と絶えず放出し続けられるフエラの水球にここの戦士たちではなす術もない。魔族相手に魔術士が多く駆り出されるのは、魔術の扱いが苦手な物理戦闘職では不利になるからだ。この聖堂武道館で鍛錬する戦闘職に魔術攻撃を可能とする者はフレッチャくらいである。魔術士を除けば。
「不思議……それも、魔術?」
小さな声が、よく聞いた言葉がアイシャとフェルパの耳に届く。
「水はあたしの専門だから」
フェルパの水鉄砲よりも断然速い弾がフェルパに届いて最後のお守りを発動させる。フレッチャの後方から現れた紫ツインテは疲れ果てた魔弓術士の肩に手を置いて大丈夫かと声をかけながらフレッチャの体をまさぐっている。
(マイムちゃんっ? なんでここに)
魔術士適性のマイムは普段ならこんな朝早くに武道館に用事はないはずである。だからフレッチャの弓だけに対処した数のお守りをフェルパに預けていた。そこに他の魔術が使える相手がいたら、フェルパの守りはアイシャだけとなる。剣神を相手取りその全てに対応はさすがに難しい。
「よく知ってる魔力が見えたから来てみたら──何この状況」
マイムには魔力が可視化されて見える。今のアイシャも同じことが出来るのに、この可能性を失念していたのはアイシャの不手際だ。そしてさらに不測もついてくる。
「ありがとう、マイム。少しだけでも、助かる」
マイムの登場に意識を取られたアイラの前では、クロス払いをバックステップでかわし、巻き起こした風圧さえも振り上げた剣で斬り裂いたサヤがいる。
(魔力のこもった風を、斬った?)
それはアイシャも見て驚き、マイムも「ほぅ」と息をつく出来事。ただの剣技で魔術は斬れない。
サヤは声は出さず、勢いよく剣を振り下ろす。
パタンっ。
「ん?」
またも剣を受け止めようとしたアイラの翼はただ手を合わせただけに留まり、サヤの剣はその手前で止まっている。
タイミングをずらされて思わず感心したアイシャのお腹にサヤの横蹴りがはいる。当然ダメージというダメージはないが、それなら予定を繰り上げるだけだと大袈裟にのけぞる。この次の瞬間にも対応しなければならないアイシャは忙しい。
「てやああっ!」
サヤの光の帯をひく縦切りがわざと受けようと無防備にしているアイシャを直撃する。
「いっ⁉︎」
ビリっと、アイシャに小さな衝撃が伝わりサヤは渾身の一撃に手応えを感じて笑みがこぼれた。