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ともだち

「ん? いいに決まっているだろう」


 シャハルに戻ったアイシャたちはその足でギルドを訪ねている。どこにいるか分からないバラダーに取り次ぎを願うつもりだったのが、丁度アイシャたちが街を出た日に来たらしくそのまま局長室へと案内され、話を切り出したマケリへの返事がこれだ。


「いや、そこは魔族をこの街に──とか、人間族の領土に入れるわけには──とかあるんじゃ?」


 アイシャをしてそんな風に言わせるほどに呆気なく降りた許可。


「マケリが同意してエルフまで連れてきた話だ。何かしら確かなものを携えてきたのだろう。結果の分かりきった話を形式上の問答でダラダラしても仕方ない」


 その上で、“アイシャ”がしっかりと関わっているならどうあってもその通りになってしまうのだろうと思えてバラダーはそういう言い回しの許可の出し方になっている。


「なるほど……やはり女神様ともなれば私の出番など無いほどに信頼されているのも当然ですね」


 女神アイシャとフェルパ信仰の厚いショブージはバラダーの反応にうんうんと満足げである。


「──なら小樽も回収しちゃうか」

「んぐっ……」

「何だその小樽というのは?」


 どこかの寒い地域の名前ではない小さな樽のことを聞くバラダーにマケリはそれよりも、と大樽をアイシャに出してもらい2階の局長室の床をミシミシと言わせてその特徴を説明する。


「お前は……いっそ中央で雇い入れてしまおうか?」

「お生憎様、私はサヤちゃんたちと活動するのよ」

「フレッチャとかいう子も姫騎士のお眼鏡にかなったそうじゃないか。その2人がいるならお前たちごと雇い入れることも出来るぞ?」

「局長、本気で……?」


 バラダーの発言にいつものアイシャに対する冗談や茶化しが感じられないことにマケリは驚き問いかける。


「──無理強いなどは出来ないが本人が望むならその手配は容易い」


 本気での誘いという点はごまかしたものの、国の端っこの街から中央への斡旋を引き受けると言うバラダー。


「中央の“メソン”生まれなら当たり前に住み働けるけれど、よその街からは厳しい審査をくぐり抜けなければ働くことも長期滞在さえも出来ないというのに」


「姫騎士が推しているし、このちんちくりんは俺が推薦すれば反対するものは居ない。そのオプションとして他の面々を受け入れさせる事も俺なら出来る。それだけのメリットがあるから、な」


 日本の本州ほどしかない国土にはいくつもの街や村もあるがそれらを周囲に配置して安全を確保されたメソンの街は特に大きく、重要な人物も多い。何しろ民主化された国とはいえ代々続く王家もいるのだ。その街においてのみなら選民主義じみた慣習まである。


「手綱さえ握れば……何も問題はない。そこの鳥と同じに」


 ウラには何のことか分からないが、“問題ない”という点だけは自分を受け入れる言葉として聞き逃さない。


「せっかくだけど、私はそんなの御免だからね?」


 バラダーとマケリだけで何やら話が発展しそうだが、当事者であるアイシャからすればそれはきっと自由が奪われる話だろうとこの辺でストップをかける。何かに縛られる人生はアイシャの本能が拒否している。


「富も名誉さえ、手の届くところに行けるというのに、か?」


 そんなことはこの女の子に関係ないことは分かっている。バラダーがそれでも時折こうした話をするのには一応の意味はある。


「どこに居ても私の人生はここにあるのよ。私たちの、人生は。それを──利害で見て、あまつさえ友だちをオマケみたいに扱うなんて──」


 アイシャも全くの子どもではないからそれが大事な話なのも分かるが、譲れないところというのはちゃんと持っている。


「納得、出来るわけないでしょ?」

「アイシャちゃんっ」


 フェルパもまたその“おまけ”なのだ。この子はアイシャたちといられるなら、と許容する気しかないが改めてそんな事を言われるとこの相手に大事に思われているんだと嬉しくなり抱きついてしまう。


「まあ、そんな事は分かってるんだが一応、な?」


 2人の抱擁に苦笑いのバラダーと悶えるショブージ。


「俺がまたシャハルに来たのは他でもない、アイシャに依頼を持ってきたわけだから、そんなアイテムを見せられて声もかけなかったとあれば周りに何を言われるか分かったもんじゃない」


 ふう、と息をつくバラダーにマケリは「そういうこと……」と呟く。


「私に、依頼?」

「“魔王”誕生が正式に通告された」


 バラダーがコンッと飲み干したコップを置く音だけが部屋に反響する。マケリは生唾を飲みショブージは抱き合ったままのアイシャとフェルパから目が離せない。


「なにそれ、まおちゃん?」

「アイシャちゃん、魔族の王様だよ」


 どんなの? 魔王はこわいんだよー。などと気の抜けたアイシャとフェルパの会話はこの部屋から緊張感を掃いて捨ててしまった。


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