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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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哀愁の暗雲を斬り裂く欲望の光

 ──アイシャとフェルパが帰ってこない。


「どうせあの鳥と遊んでるんだろうけど、さ」

「しかしその魔族と連れ歩いているならばティールたちが手を出さないとも限りません」


 アイシャ寄りの亜神が棲むこの森でそれはないと思いつつも、可能性として進言するショブージはマケリとともにアイシャたちの歩いて行った方へと探しに来ている。


「ん? これは……」


 視線の先に落ちているクッキーはショブージの鼻で誰のものかすぐに分かる。そっと拾い上げれば間違いのない確信に変わる。


「女神様の、香り──」

「ショブージくん、さすがに引くわあ」


 下草に紛れたそれは10円玉ほどの大きさなのにショブージアイとショブージノーズは離れたところにあるそれを容易く見つけたのだ。


「マケリさん、この先におなじももがいくふほほちへいまふ」

「落ちてたクッキーを食べながら言わないで気持ち悪い。何で言い始めてから口に入れた気持ち悪い。同じ物がこの先にいくつも落ちているのね。ならその先にアイシャちゃんたちが?」


 こくりと頷くショブージにはアイシャとフェルパの香りが届いているのであろう。とても気持ち悪いとマケリは思うがこれ以上言っても仕方ない。


「……そのクッキー、大事そうに集めているけど、持って帰ってみんなでわけるの?」


「そんなもったいないことをっ! 女神様謹製のクッキーは私の週一の楽しみに取っておきますっ!」

「そこまで……先に腐りそうね」


 そして腐っても構わず口にして悶えるのだろう。そう確信するマケリたちの進む道にはすでに人が通ったあとがある。


「あれは、なに?」

「あっ、あれは!」


 森の中に突如として現れた大きな樽。その裏から出てきたのは魔族の鳥である。


「はあーあ、ダメな魔族のウラはもうどこにも行けないです」


 哀愁漂う鳥は背中に大きく“哀愁”と丸い文字で書かれた紙を貼り付けてマケリたちに見えるようにして座り込む。


「見つけたよっ、この魔族めっ!」

「ああっ、魔族を追い払う人間ですぅ。ウラの運命もここまでですかっ?」


 そこに現れたのは水鉄砲を手にしたフェルパ。


「ててて、てぇーいっ」

「あーれー、やめて、やめてほしいですー」


 フェルパが放つ水が鳥を濡らしていくがすぐに引き金を引いても出なくなってしまう。


「あれ? あれ、おかしいなあ、おかしいなあ」

「おやおや、弾切れですか? それとも魔力切れですか? これならウラはのんびりでも逃げられそうですね」


 勢いを失ったフェルパは困り果ててオロオロするばかり。鳥はそんなフェルパを煽るようにそばでバサバサと羽ばたいて踊っている。


(一体なんなんだろう……)


 そんな2人を冷めた目で見るマケリと、フェルパちゃん頑張ってと応援するショブージ。


「んん? お嬢さん、どうしましたか?」


 ここでこの茶番劇の仕掛け人アホの子が舞台袖というか木陰からひょっこり現れる。


「わたしの水鉄砲がもう動かなくって……」

「なのでウラは華麗に飛び去りますよー?」


 バサバサと鬱陶しい羽ばたきがフェルパの髪を巻き上げる。マケリはあくびをしてショブージはアホの子登場に興奮している。


「それはそれはきっと水が足りなくておまけに魔力も不足しちゃっているのでしょう。それではきっとあの魔族を取り逃してしまう」


「ええー、そんなの困ります。せっかく見つけた両親の仇なのに! 八つ裂きにされた挙句に木に吊るされてはらわたを食い散らかされた両親の仇なのにっ! わたしの手には今もお父さんの大腸の感触が、お母さんの肝臓の血だまりの温もりが洗っても洗っても消えずに残っているというのにっ」

「う、ウラはそんなことしないですよっ⁉︎」


 きっと台本にはない設定だったのだろう。いきなりの重たい設定に魔族役のウラは素で否定している。


「それは悔しいことでしょう。どれ、私があなたの望みを叶えましょう──」


 アイシャはそこに鎮座するドデカイ樽を大げさに指し示して


「ここにありますは私の秘蔵の一品。水がなみなみと入った大樽であります」


 何をいまさらとマケリはあくびが止まらない。


「なんとこの樽、不思議なことに内包される水には魔力が宿っていてその水鉄砲を使うのに必要な魔力も水も補ってくれる代物っ」

「わあい」

「なっ──」


 棒読み演劇フェルパの無感動な声とは違い、あくびを空高く放り投げたマケリは口の塞ぎ方を忘れたかのよう。


「しかも使い切っても水を補充できるのは当たり前、魔術の得意な人に頼めば魔力の供給も出来て繰り返し使える素敵な樽っ!」

「そうなん──」

「なんだってえっ⁉︎」


 フェルパの演技をマケリの大声が遮るが演劇は止まらない。


「ほんとだっ! これなら……えいっえいえいっ!」

「うわわっ、やめて、やめて欲しいですうっ!」


 ウラは再び背を向けてフェルパの水鉄砲をその身に受ける。


「さてさて、この樽の中身はそんなに濃くはないのですけど、ここに濃いめの私の魔力を込めた水の入った小樽がありますっ」

「うわあ、アイシャちゃんの愛が詰まったかのような樽だね」

「なんとっ! 女神様のっ⁉︎」


 フェルパが反撃を再開できて良かったねと喜んでいたショブージはアイシャの愛が詰まった液体入り小樽にガッツリ食いつく。


 アイシャとフェルパ、ウラが目配せして大きく頷くとこの茶番劇もそろそろフィナーレである。


「今ならこの大樽と小樽をそれぞれ先着一名さまにプレゼント! 応募の条件はもちろん──」


 この先をアイシャが口にする必要はない。こんなしょうもない事をやってまで3人が求めるものはさっき既に聞いている。


「ウラならきっとシャハルでも受け入れられるわっ! 私が保証するっ……ううん、私が何としてでもねじこむからっ」

「私も後押ししましょうっ。魔族の、この美しきエルフが太鼓判を押せばっ」


 前のめりに、こけそうなほどに身を乗り出して2人はアイシャたちに詰め寄る。


「「だから私にくださいっ!」」


 マケリは実際に水鉄砲を使いこなせるほどに魔力はないだろう。ショブージは愛しき女神様の愛(?)が込められた水を一滴残らず飲み干したいだろう。それぞれに醜い欲望のままに勝手な事を言っているのだ、この約束に確実性はない。


 ──ないけれど、それでもフェルパが思いついてアイシャが台本を作った茶番劇の結果はウラに今このひとときでも幸福感を与えたに違いない。


 ウラの背に貼られた“哀愁”の文字は水に濡れて紙とともに溶けて無くなり、その顔には笑顔と光る涙があった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ショブージ、流石に引くわ(笑)
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