森の秋祭り
「森のお祭り?」
「ええ、私どもは森が眠る冬を迎える前のこの時期に春の実りを願うささやかな祭りを行うのです」
アイシャが眠るお昼寝館の来訪者はエルフのショブージである。アイシャを守る(という建前の)ルミとタロウくんによるルミちゃんキャッスルからの砲撃のことごとくを華麗にかわしてたどり着いたショブージには今はもうオネエ要素はない。
「エルフってもしかして冬眠するの?」
「……? さすがにそんな事はありませんが?」
森の恵みを糧とするエルフたちが行うというお祭りに、アイシャは熊かカエルのように土の中で眠るのかと想像してしまう。
「秋の、ねえ。面白そうだけど私も(お昼寝で)忙しい身だからねー」
「アイシャちゃんやフェルパちゃんに参加していただけると皆も喜ぶと思うのですが……だめ、ですか?」
それはきっとほとんどショブージ個人の願望なのだろうが、スィムバの森に住むエルフたちにとってアイシャらが救いをもたらしたのも事実で少なくない感謝の念を抱いてもいる。
「行ってもいいんじゃない?」
ルミちゃんキャッスルの大砲の角度と発射シーケンスを微調整してショブージへのリベンジを目論むルミはアイシャに行くように促すつもりらしい。
「うーん、気温がねぇ……」
それは夏を過ぎた今が外でお昼寝するのに最高で、森におでかけすればそんな至福のお昼寝タイムを逃してしまうという懸念である。アイシャも冬の到来を前に短いお昼寝適温を祝っているのだ。お昼寝祭と冬眠前祭りではお昼寝に軍配があがる。
「でもさ、秋の課外授業って戦闘実習の参加かレポートの提出だったよね? エルフのお祭りならちょうどいいんじゃない?」
「ショブージくん、私はエルフのお祭りに興味しんしんだよっ。フェルパちゃんも誘って行くね!」
「ありがとうございます!」
ショブージに人間族の子どもの課題など分かりはしない。素直に喜ぶショブージはルミのリベンジを受けて立ち、かわし損ねた砲弾を肩に1発受けて帰って行った。
「アイシャちゃんと2人っきり?」
「まあそうなんだけどエルフのお祭りだよ」
「そうなんだぁ。2人っきりのお出かけ」
アイシャがフェルパを誘えばなにやら違った方向に期待して快諾される。
「まあ、そういうわけにはいかないんだけどね」
出発当日には欲深きお姉さんことマケリも参加することになる。
「来年ならいざ知らず、まだあなたたちはギルド職員の随行が必要なのよね」
シャハルの街が魔族領と隣接していないために比較的安全とはいえ、魔物はあちらこちらに現れる。
「あれ? マケリさん、その鎧は新調したの?」
いつもより綺麗な軽鎧はアイシャの目を惹くくらいに輝いて見える。
「ふふん、気づいた? ちょっと銀狐の素材が手に入ったからさ。私が使う分にはこれで充分な量だったわ」
これまで革の鎧を着ていたマケリはその大部分が銀の毛並みに置き換えられた鎧を着ており、頭に関しては耳まで再現したフードとなっている。
「防具屋の親父さんが唸ってたよ。ひさびさにいい仕事が出来たってさ」
マケリが言うにはどうやらそのキツネ耳付きフードには聴力強化の効果が付与されたらしく、適性職のスカウトとして活動する際に大いに役立つそうだ。
「防具に付与。そんな事が出来るんだ」
魔石に属性付与や魔道具加工、エルフたち魔族のアミュレットは知っていたアイシャも防具に付与が出来るとは知らなかった。
「あー、でも狙って出来たりはしないのよ。熟練の職人さんでも稀にしか起こらない事だって。引き取りに行った時なんて逆に金を出すから譲ってくれなんて言われたわ」
マケリの装備のお披露目の相手はアイシャたちであるが、その中でもとりわけ裏取引に応じてくれたルミに対しての感謝が込められている。
新装備にうきうきお姉さんことマケリとアイシャにフェルパ、ルミとタロウくんでスィムバの森へと向かう道中は“誰が魔物の位置を1番に特定出来るか勝負”なるものが行われ、本来の職業技能をフルに使いフードの付与をも惜しみなく使う大人げないマケリ無双となりアイシャが“そんなのチートじゃん”と自分のことを棚に上げて文句を言う楽しいものとなった。