おつかい
「じゃあこれでシャハルの街の精霊術士にも精霊を与えられるわけよね」
エルフィアはその溜め込んだ穢れから解放されたのだ。幼女になったとて女王が無力な存在になったわけでないことはアイシャにも分かっている。
「むしろ若ければ若いほどに漲っていそうよね」
溜め込んだ分だけ見た目が老化していくのなら胎児にまで若返らせた方がいいのかなとかアイシャは冗談めかして言う。
『確かに若い姿の方がいいとはいえ、これが最良の姿よの。おかげで今はスッキリして精霊門も解放出来るのだけれど……』
「な、何か問題でも?」
知りすぎた自分がネックなのかもと焦るエスプリ。
『いや、単純な話での。この精霊界……見ての通り今は妾しかおらぬで。穢れを溜めすぎたときに全部食べちゃったらしくての』
「……」
女王はそうしてギリギリ保ってきたと言うが、その光景を想像したエスプリはノームを抱きしめて後ずさりしてしまう。
「うんこで出てきたりしないの?」
『女王はうんこなどせぬ』
アイシャの質問に条件反射的に返す幼女。
『妾の窮地に1体、また1体とその身を捧げてくれたのよ。全て涙してこの身に取り込んでいったものよの』
その平らな胸に手を当て、しみじみと話す幼女。エスプリは精霊たちのその尊き献身に心打たれて涙している。
「──じゃあ、この世界でひとりぼっちなのね」
うんこにしろ子どもにしろ、そういった形で外に出す事も出来ないのであればとアイシャは幼女の現状をそう表現する。
『何百年か経てば自ずと生まれてはくるのだがの』
それまではボッチじゃのぅと顎に指を当てて呟く幼女。
「じゃあさ、こっちの世界に来る?」
こんな何もない空間でひとりぼっち。それは毎日を悠々自適に過ごしたいなどと夢想するアイシャでさえお断りである。
『妾を誘っておるのかの?』
全ての精霊たちの頂点に立つ女王はかの地龍よりも高い地位にあり、その実力もアイシャたちとは次元が違う。何よりこの成長の余地ある幼女であれば、チーム“ララバイ”への加入要件(女の子)も満たしていることであろう。
(アイシャちゃん、なんて提案を……もし人間族の誘いにのって来てくれたならば、それは強力な味方を得たも同然。世界の勢力図が一変するわ)
見守るエスプリの考えが伝わったわけではないだろう。だが幼女は首を横に振りアイシャの誘いを断った。
『妾が家出なんぞしてしまえば、誰が世界の穢れを浄化する。ボッチだろうと何だろうと妾はここで存在していなければならないよの』
「そっか、残念だね」
アイシャの安直な提案はエルフィアの役割があるために却下されたが、それでも「誘ってくれてありがとう」と言って幼女は嬉しそうに茶をすする。
「あ。ひとりぼっちにならないで済む手もあるのか」
ふとエスプリを見たアイシャはまたも思いつきを声に出していつものようにストレージに手を突っ込み、この世界にふさわしい友人たちを鷲掴みにして取り出す。
『──ほう、まさか精霊を魚の餌みたいに持ち歩いておるとは、のう』
「アイシャちゃんは、まだこんなに……」
地龍と出会った洞窟では光るミミズことノームたちを珍しいからと見つけたそばからストレージに放り込んでいたアイシャ。
「5匹だけ、だけどいいかな?」
『良いに決まっておる、むしろこれ以上はないよの。外から連れて来てくれるなどとは思いもよらなんだ。ふふ、可愛いやつらではないかのう』
さすがは精霊界の女王といったところか。アイシャの手から放たれたノームたちは早速とエルフィアの元に這い寄りその手に口づけしている。
『このノームたちがいれば、やがては数を増やしていくであろう。しかしお主は……そうよの、礼にこれをやろう』
幼女はワンピースの裾に手を入れて股の辺りでゴソゴソしてひとつのアミュレットを取り出す。
『“精霊女王の雫”という名のアミュレットでな。この精霊界といつでも行き来できる通行手形よ』
黄色い雫の形をしたアミュレットは煌びやかな光を湛えてアイシャの手に渡され……アイシャは手に受ける寸前にかわしてアミュレットは地に落ちる。
『──なぜによける』
「いや、幼女の股から黄色い雫って。もう完全にオシッコでしょそれ」
エルフィアの好意をかわし「あんたらは普通にイタズラするからなあ」とアイシャは悪態をつくが、エルフィアは「オシッコではないよの」とアミュレットを拾いアイシャに手渡すために追いかけ回す。
「うああ、私の手にオシッコがぁぁ……汚されちゃったよおぉいおいおいおい」
『ふんっ、精霊界の女王にかけっこで勝てるとおもうてか』
アイシャを後ろから押し倒して馬乗りになった幼女が勝ち誇る。
『──お主、この先なにも決めておらぬのであれば精霊界のために、ひいては人間族のために精霊を集めてきてはくれぬか? あやつらは自力で精霊門をくぐれはせぬが、今のように誰かの中に入ってくる分には問題はない。そしてそんな事ができるのはこの世界においてお主の他におるまいて』
エルフィアのお願いは幼女の雫を心底嫌がるアイシャが首を縦に振るまで続けられた。




