ロリでおばあちゃん
『妾とて好きであのような姿になっていたわけではないのじゃ』
危うく解散になりかけたお茶会は、どうにか続けられて幼女の言い訳のターンに入る。
「老婆から幼女ってどんなアンチエイジングを施せばそうなるのよ」
アイシャにはもはや倒す術なく殺されるしかないのかと観念しそうになっていたところだ。
『アンチエイジング、か。まさにその通りよの。生き返った思いがするわい』
幼いナリで年寄りみたいな話し方をするところを見るにどうも中途半端なアンチエイジングだったらしい。
幼女はアイシャたちを含めて淹れなおしたお茶をすすりながらチラチラとアイシャとエスプリを見てはしみじみとした顔をして「大変だったわー」などと呟いている。
「……で? なんでそんな事になってたの? って聞けばいいのかな?」
『うむ? まあ聞きたいなら仕方あるまいて。気になって仕方がないようだからの』
幼女の返しに「うざ」と言って立ちあがろうとするアイシャ。またしても涙目で謝る幼女にアイシャも困惑しながらも座り直して話を聞く事にする。
『──この精霊界はお主らの世界の穢れを浄化する役目があっての。浄化した穢れが溜まりに溜まって妾が取り込まれてしもうたのよ。せめて外に漏れ出ぬようにと精霊門を閉じてしまったが、おかげで今日この時まであのような姿で放置されてきたというわけよの』
「私たちの世界の穢れが精霊界の女王を──」
エルフィアの説明にエスプリは申し訳ない気持ちになる。
『なに、人間族ばかりではない……世界の、穢れよ。とくに領土争いに明け暮れる者たちの間では殺し殺されの毎日での。くすんだ魂も怨嗟の叫びも、その全てが蓄積されてきた』
ギルド職員であるエスプリはその惨状を遠い地の話ではあれど知っているが、アイシャには想像もつかない。
「でもそんなのって今さらじゃないの?」
『そう、今さらなのだが──これまではお主らの世界のヤツが妾の溜め込んだものをどこぞに消し飛ばしてくれておったのじゃが、近頃はとんと現れなくなっての』
アイシャが差し出したクッキーを食べて満足顔で語るエルフィアからはあまり深刻さが分からない。
「近頃、ですか」
『んん、そうじゃの。お主らの感覚で言うと最近のことでもないかの。子が親になるよりも長い時間、と言ったところかのう』
「中身は実際のところ老婆なのね」
時間感覚のおかしい幼女はズバリその通りらしくプンスカと怒るそぶりをしてみせる。
『──まあ、実年齢などどうでもよいの。妾の場合はそういう生き物ですらないからの』
「おばあちゃん」
大人の余裕を見せたかったがまたしてもプンスカする幼女は謎のアンチエイジングで精神年齢までおかしくなっているらしい。
『あやつは、いつも来てくれておったあやつは、なんでも“別の世界から飛ばした魂の後始末”をするとかでそちらにかかりっきりだったらしい』
「ふーん……」
自分で焼いたクッキーの出来に満足するアイシャはあまり話を聞いていない。
『“慌てていたから混ざってしまった”とか言っておっての。それがどうにか生命を得たのが15年前のことよ。一応報告に来てくれたが、その時には妾をどうにかしてくれるチカラは無かったようでの』
「15年前とか私の生まれた頃の話じゃない」
奇遇ねっと軽く流すアイシャ。
『“その代わりに知り合いに魔力を溜めさせて送るよ”なんて言っておったが、それも上手く行かなかったようでのぅ』
「あらら……ご愁傷様ってやつね」
これは幼女のグチなのか、それとももしかしてと思い始めるアイシャは追加でマドレーヌも幼女に貢いでみる。
『今日死んだ者の魂が明日蘇るわけではない。長い年月をかけて再生されるがあの者の手で“こうして生命を得て、狐めの集めた魔力を手土産に”やって来てくれたのだから、感謝せねばのぅ』
「私は悪くない。全部あいつらのせいよ」
どうやら誠司と皐月を拾った影のヤツがここを放ったらかしにせざるを得なくなって精霊界の女王は老婆になりシャハルの街はおろか世界の精霊門が閉ざされていたらしい。
その上、狐の亜神がスィムバの森で集めて溜めていた澱みをアイシャが掻っ攫ったせいで今までもどうにも出来ずにいたのだとか。
「まあ、こうして解決したっぽいし結果オーライじゃない?」
『その通りよの。それにしてもお主のお菓子は美味しいのう!』
とはいえアイシャとてわざとそうしたわけでもない。エルフィアもそれに対して責めるつもりもなく、まさに結果オーライだと2人で笑う。
「ねえノームちゃん。私は聞いてはいけない話を聞いていたんじゃない?」
アイシャの秘密の根源とも言うべき話まで耳にしてしまったエスプリはノームの肯定する返事にただただ震えるしかなかった。