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働きたくない

 海で街でダンジョンでと忙しい夏を終えると2学期が始まる。その初日の長い挨拶の後に帰宅とはならずに当たり前にそれぞれの1日が始まるのがこの聖堂教育であり、8度目の秋をお昼寝館で迎えるアイシャは屋根の上で平和なお昼寝に興じている。


「ママはさ、ここを卒業したらどうするんだっけ?」


 ルミもたまにはいいかとタロウくんと共にアイシャの側で何もしないお昼寝をしている。


「チーム“ララバイ”だねぇ」

「ふーん……」


 以前はどこか嫌そうで仕方ない感じのアイシャではあったが、今はそれを受け入れているように見える。


「戦うの?」

「戦わなくていいように持っていきたい」


 そのためにも生産職、つまるところ武具職人として所属したかったが、職人ギルドは出禁になってしまった。ぬいぐるみ作りの需要もお守りや魔除けでなら充分ありそうなのだが、こちらも職人ギルドである。


「無職のままで活動出来たらいいのに」


 チームに所属するにもまずはその就職先を明確にしなければならない。このままでは冒険者ギルドになりそうだが、そうすると戦闘職としての働きを求められる。


「人間族って面倒ね」


 全てがナチュラルな魔族とは違い、人間族はギルドカードによる恩恵を受けて生きている。それは個人差こそあれ周りに少なくない影響を及ぼしもする。


 そんな個人を野放しにするわけにもいかず、公的な機関であるギルドが管理して定期的にそのデータの更新をしていくためにもどこかのギルドには所属を求められる。


「──いっそ精霊術士にしちゃう?」


 前にアイシャが連れていかれた時には、ストレージからノームを提供して、魔力の登録だけを済ませてある。


「それ、いいかも。あそこ働いて無さそうだったし」


 唯一働いているはずのエスプリもアイシャから見ればのんびりとのほほんとしているだけに見えた。そこでならアイシャの寝て過ごしたい欲求を叶える足掛かりとなるのかも知れない。




「うわぁ、この子が花の精霊! かぁわいいー」

「噂通りよね。ちっちゃいのにスタイル抜群」

「きゃあっ、このお花くれるの?ありがとう!」

「この服とかオーダーメイドなの? 素敵ぃ」


 善は急げと精霊術士ギルドを訪れたアイシャとルミを待っていたのは、魔術士ギルドとは少し違うローブに身を包んだ女の子たち。


「ママ、ここにしましょ」

「いや、ルミちゃんが嬉しいだけだよね? もはやキャバクラじゃないの」


 精霊術士ギルドの若手4人にそんなつもりはないが、気をよくしたルミはもう決めたつもりでいる。


「アイシャちゃん、ノームちゃんたちのことでは本当にありがとうね。みんなも無事に精霊術士としての仕事が出来て感謝しているわ」

「だろうね、この姿を見る限りは」


 エスプリの部下と紹介された4人はいずれもまだ若い女の子たちで、それぞれに光るミミズことノームを連れて仲良く出来ているらしい。


「精霊が見つからないことには仕事もないから……その間に魔術士ギルドのアルバイトをしているうちにみんなそっちに行っちゃうのよね。残っているのが若い子たちばかりなのもそれが理由なのよ」


 他所での下働きを長く続けて、それでもいつかはと所属し続けてくれる稀有な人材などいない。精霊術士ギルドとしての業務をこなせなければ待遇も新人から変わらないのだから。


「そういう私もまだ22なんだけどね」

「そうなんだっ。若いなとは思ってたけど、その歳で精霊術士ギルドのトップとは」

「別に偉くもないわよ。私しか精霊と契約した人がいなかっただけだし」


 他に誰も人がいないから、肩身が狭いからと魔術士ギルドから独立した部署でのトップ。それは名ばかりでほとんど平社員の待遇でしかないと話すエスプリ。


「そういえばなんでエスプリさんは精霊と契約出来たの?」


 誰も契約することが出来ていないからこそ人材不足なのに、エスプリはノームを連れている。


「それこそ偶然、たまたま、運が良かった。そういう言葉でしか説明出来ないことよ」

「ん? 道端で拾った的な?」

「そんなゴミみたいなことはないんだけど」


 エスプリはノームと笑い、相手がアイシャだからと怒りもしない。


「聖堂の奥に精霊門ていうのがあってね。門とか言うけれど実際には石碑がひとつあるだけの場所。そこで精霊術士適性の子は初めに精霊と出会えるかもって案内されるのよね」

「そんなところがあったんだ」


 アイシャの同級生に精霊術士適性はいない。他の学年では少しいるのだが、いずれも魔術士としての道を選んだらしく、あと数年は精霊術士ギルドに新人が入る予定は無さそうである。


「そこで私だけ……ノームちゃんと出会えたんだけど、聞いたら『たまたま地上に出てきたら出会っただけ』だってさ」


 ノームミーツガールというジャンルの日報を書いてバラダーに提出したこともあるとエスプリは笑う。


「そうだ。3歩歩けば不思議と出会うアイシャちゃんなら、他の精霊とも出会えるかも知れないわねっ」

「何その不名誉な通り名は」


 女の子たちの接待に気を良くしたルミとタロウくんを残して、アイシャとエスプリはその精霊門を訪ねようとギルドを出ていった。


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