打ち砕く
ぷにゅっとベイルの顔面に当たる感触は柔らかく、とても金属の剣で突かれたとは思えない。
ビビって閉じていた目を開けると目の前は茶色で、次第にその向こうのメイリーが見えてくる。視界を埋めていた茶色がだんだんと下に落ちて来たからだ。
地面に落ちた茶色の塊はハナコで、目を閉じて身動きひとつしない。
「はっ。亜神の娘に助けられたか。しかし切先に血のひとつもついていないとは、よほどに守りが高いとみえる。まあそのサイズであればそれでも中身が潰れたのかも知れんが」
魅惑の衝撃吸収ボディもアイシャとベイルのサンドイッチで潰せた。それがこの小さなサイズであればメイリーの剣技でも可能なのかも知れない。
「ハナコ? おい、おいハナコ──」
落ちたハナコを拾い上げて声をかけ揺するベイル。
「魔物に助けられて魔物の心配をするとは。まさか本当にモグラと結婚するつもりだったか?」
嘲るメイリーの声などはもう気にもしない。今は自分を守ってくれたハナコが死んでいないか、それだけが気がかりである。
「気に入らん。気に入らんなっ! 強者なら、そんな魔物など斬り捨てて上へと登れば良いものをっ!」
亜神の娘とはいえ魔物など殺す対象でしかないと言い捨てるメイリー。
「ハナコは俺を守って──」
「それは魔物だっ!」
動物は魔力を持つものと持たないもので魔物と区別され、そのうち魔物は人間族にとっては危険であると同時に己を高める糧であるスキルポイントの源でしかない。
出会ったこともない亜神のご機嫌伺いなどするつもりもないメイリーにとってはハナコはそんなどこにでもいる魔物と変わらない。
「ママ、あれでいいの?」
「うん。ありがとうルミちゃん」
アイシャの指には糸が括り付けられていて、そこから魔力を通せば自在に操ることが出来る。釣り遊びから得た特技は高い魔力操作を身につけさせ、その糸の先に今は足枷が括り付けられていてルミがその先をベイルの足にはめてきたところだ。
「出来るかは試してないけど、やると決めたらやるしかないよね」
早速とばかりに使うアーティファクトはモグラ亜神が使った時にはアイシャとベイルの足を直接繋いでいた。けれどその長さが短いためにこの場でその使い方は出来ない。
「ぶん殴りたくなったらやっちゃいなよ、ベイルさん」
アイシャの手応えは確かにベイルへと魔力を繋いでいる。あとはベイルがどうするかだが。
「ハナコ、ハナコと女々しいやつめ。ならばそのモグラと同じところへとお前も送ってやろうっ」
他人を蔑み煽ってどこかおかしなテンションになったのか、メイリーは目の前の人間を殺めることに躊躇がない。
斬撃、斬撃と反応せずただ受けるだけのベイルの顔面に突き入れる。
「魔物が庇ったそこが弱点! くらえっ」
斬りかかる動作とは違い突き入れる攻撃は点のように映り反応することも難しい。
「ふんっ!」
ベイルはそんな姫騎士の渾身の突きを横からの右の掌底で防ぎ、粉々に砕いてしまう。
「っな⁉︎」
「──せいっ!」
メイリーは油断していたとはいえこれほどの衝撃を受けた事はない。薄れゆく意識の中、己を一撃の下に倒した男の顔を見る。
「──なんて、悲しい……」
振り抜いた掌底の体勢から深く肩を入れたベイルのタックルは姫騎士の胸元を捉え、鎧をその狂気ごと砕いて姫騎士の意識を暗闇に沈めた。




