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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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ふかふかとはまりゆく

「まだ未熟なその花びらたちが取り出すそれは禁断の果実。甘く、熟れているかと思えばほのかな甘酸っぱさを含んでいる。男は抗えない欲求に従い手を伸ばし、糸ひく果実にそっと口づけして、味わうのだ──」

「おい嬢ちゃん、訳のわかんねえこと言ってねえでどうにかしてくれ」


 ベイルが先ほどから断りきれずに食べ続けているのはクルミで、カリカリと殻を剥いて差し出される風景は決してそんな艶かしいものではない。


「いいじゃん。ハーレムだよ、ハーレム」

「こんな──いや、俺にそんな願望はねえ」


 他種族の外見批判は場合によっては戦争にもなる。ベイルは危うく言葉を選んだわけだが。


「おお、ベイル殿はハナコ様一筋であられるずらっ!」

「ち、ちげ──いや、そうだな。そんなとこだから、さ。解放してくれないか」


 そのうえ肩に乗る亜神の子どもの機嫌まで窺わなければならない。


「うちらのもてなしでは足りないずら?」

「ん、そういうわけでは……何に何が足りないって?」


 ビエールカの強引さとは違い、心細そうなめんこいズの1人の言葉に、この扱いはそもそもベイルに栗鼠人族が何かを求めていると思い至る。


「うちらは住むところを無くして追われてここまで来たずら。人間族は優しいけんど、また同じ目に遭わないとは限らないずら」


 だから森の主の庇護が欲しいんだ、と。それは別角度ではあるがギラヘリーでの対話の時にも人間族側で出ていた話でもある。


「──双方に安心を与える存在」


 そのためにこの森の主などという存在がいれば。人間族が開拓出来ていなかった森は栗鼠人族によりここまで拓けた。人間族はこれ幸いと森の権利を主張したりしないか。栗鼠人族はここを拠点に人間族を脅かさないか。




『──我で安心出来るのならば、娘の婿殿のためにもその役、買って出ようではないか』


 ベイルが思案しているうちに、背後より聞こえて来た威厳ある声。


「こっ、この声は!」「森の奥から聞こえたずらっ」


 辺りに響く太い声が木々を揺らして、奥から馬鹿でかいモグラが現れる。ダンジョンで戦ったハナコよりも二回りは大きいと思われるその巨体は、しかし木々を薙ぎ倒すなどということなく、木々の隙間を身体を潰されながら歩いてくるという軟体動物さながらな動き。


「あなたは、まさか──」


 ベイルもまさかと疑うそのモグラは、その横まで姿を現すと、前を向いたまに隣のベイルへとお茶目にウインクしてみせる。


(なぜ目を閉じた。なんの意味が)


 その大きさゆえに片目しか見えてないベイルにウインクは届かない。


『で、我でよいかの?』


 栗鼠人族はみな腕をまっすぐに伸ばした土下座で示す。


「クロートの森は別名“モグラの森”。そこに住まわれるモグラの亜神様であらせられるならば──」


 話はベイルたちを置き去りにあっけなくまとまり、モグラ亜神の一声で栗鼠人たちはこの場から離れる。




『いやあ、婿殿。ハナコに合わせてそのような恰好までされるとは、の』


 今はダンジョンの時の小さなモグラに戻った亜神は、ハナコからの救援の報せを受けてやって来たという。


「この姿は成り行きで仕方なくでさあ。しかし亜神様よ、その“婿殿”ってのは──」

『ハナコが決めたのだ。親としても異論はない』

(俺としては異論だらけなんだが)


 思っても口に出来ない。新しい家族の中でのベイルのポジションは決まったようなものだ。


「それにしても“亜神”ねえ。シャハルからギラヘリーの間だけでもすでに4体目。ちょっと多すぎじゃない?」


 ここでは初対面の体であるアイシャだが、もちろん発言や言葉遣いに遠慮などない。


『どこぞの世界には108もの神がおる小さな島国もあるらしいではないか』


 モグラ亜神も初対面の体だがこちらは誰に対しても変わらない。


『いい機会だから言っておくか。人間族やら魔族やらが領土だなんだと争っておるらしいが──』


 モグラ亜神はハナコを可愛がりながら言う。


『それ以前に地上のどこであれ、お主らがいうところの亜神と呼ばれる我らの支配域だと理解しておるのかの?』


 亜神の目撃例というのは本来は極端に少ない。そのためにその存在すらが疑われることがほとんどである。だがそれはマンティコアの亜神のようにその寝ぐらを“結界”にて隔離していたり、地龍のようにそもそも地下深く誰も住まないところに居たりするだけで、この地上の至る所が亜神の支配域だとモグラ亜神は言う。


『お主らにわざわざ関わりもせぬ我らであるが、もし癇に障るような事があれば──』


 モグラ亜神はまたも巨大化してベイルたちを見下ろす。そこにアイシャはいないことにモグラ亜神も気づいていない。


『天変地異が如く地上丸ごと蹂躙して──』

「ちゃーんすっ!」


 睨みを効かせたモグラ亜神に皆が息を呑むその上から降って来たのはやはりアイシャ。モグラ亜神の背中にぼふっとめり込み「柔らか〜いっ」とハナコ以上と思われるモグラ亜神の魅惑のボディを堪能する。


『こ、これ。今せっかくカッコつけてたところなのに、やめ、やめないか』

「んふふ、絶対寝心地いいと思ってたんだよね。あんた骨とかどこにあんのさ。全部毛じゃないの? もうこれは」


 くすぐったそうに身体をよじるモグラ亜神。呑んだ息をため息で吐き出すベイルたち。


「いや、嬢ちゃんがいてくれて助かったと言うべきなのか?」

「ママのお昼寝欲の暴走なだけ、だけどね」


 結局ここまでやりたくもない戦闘ばかりでお昼寝も出来なかったアイシャの行動に不穏なお話は緊張感とともに霧散していった。



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