聖堂教育の先に何をしよう?
結局分かったことといえば、自分が自分であるにはあるけど純粋なひとりではないということ。そしてお昼寝士であることのその理由。
「なんだかお昼寝しても淋しくなさそうでいいじゃない」
やはり真っ昼間からベッドにもぐるアイシャの呟きはひとりごとでしかないが、心なしか楽しそうであり、誰かに語りかけたかのようでもある。影との対話を経てのそんな感想ではあったが“このふたりだからこそのもうひとつの性質”を意図的に意識から外したひとりごとに、アイシャの中の『彼女』は落胆している。
しかし『彼女』の事はアイシャ自身も認識出来ないところにある。『彼女』の引きこもり願望は並じゃない。なのでアイシャが期待して想定していた、“もう1人の自分”との対話は出来そうにない。
アミュレットの事にしてもそう。このお昼寝士の技能とは違う道具とともに、今回の話は秘密として貫き通す事にした。
ただ1人、すでに“アーリン”を知るサヤだけは時折ねだってくるが、さすがにそんな事でホイホイ使うほどにアイシャもおかしくはなっていない。サヤのおねだりは未だ聞いてはもらえずとなっている。
次の聖堂教育が始まるまでのいわゆる冬休み的なこの期間に、アイシャはぜひともステータスのオールEを脱したくいつもの森に通いもしたが、相変わらずそこに変動はないままだった。
そうして日々を過ごしアイシャたちは前世で言うところの小学校を卒業して中学校にあがる歳を迎え、新しい一年がはじまった。
新しい8歳の子どもたちを迎えて、アイシャたちは上から3番目の学年となる。
「そういえば聖堂教育が終わったら私たちってどうなるの?」
「アイシャちゃん……」
いつもの食堂でサヤはものすごく残念な子を見る目でアイシャを見つめる。
「ここを終わったら私たちはギルドに登録するの。それぞれにやりたい事を見つけて」
「やりたい事? サヤちゃんは剣士以外になれるの?」
「私も別に剣ばっかりじゃないからね! 勉強だってそれなりに出来るんだから!」
言われたサヤはプリプリして抗議する。
「別に適性の通りに生きる事はないんだよ。他にやりたい事があればそれで。でないとアイシャちゃんはお昼寝しか出来なくなっちゃうよ」
「それは素敵な未来!」
「そんな未来は来ません」
適性だけで人生が決まるほど不自由な世界ではない。サヤにはサヤのやりたい事があるだろうし、アイシャにしてもそのはずだと告げたサヤではあったが、改めて幼馴染の性質を目の当たりにして驚き、笑った。
「まあ、私は順当に剣士で登録して魔物狩りとかをしてるんだろうね」
「そういう仕事があるんだね。私は……お昼寝士で……」
アイシャは以前にサヤと話したパジャマなどの作成販売での生活も想定してはいるが、それは退屈だろうなとも思っている。何より魔物を倒す仕事というのが少し気になる。
「私もサヤちゃんと同じ仕事できないかなぁ」
その呟きは無事に“サヤちゃんと一緒に”と変換されてサヤに伝わった。目を輝かせてアイシャの手を取るサヤの笑顔には言い知れない圧がある。
「アイシャちゃん、今年からは職業体験が出来るから私と一緒にやってみよ。適性は関係ないらしいし!」
ふんすっ! と鼻息荒く身を乗り出して提案するサヤに「お、おう……」としか返せないアイシャだった。
職業適性は総合的にその個人の潜在的なステータスなどを加味して判断されています。くじ引きではないですから。なので適性によらない仕事の選択ももちろん出来ます。初期にアイシャが言われたことでもありますね。
でもアイシャはやっぱりお昼寝がいいのです。気まぐれに口にした事からそっちに引っ張られていきそうですが……