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クロートの森に出没する精霊?

「あっ! アイシャちゃんみーっけ!」


 追いかけっこを終えたサヤたちは、突然アイシャの場所が分かったと言うルミの案内でアイシャを見つけることができた。


「すごいベッド。見て、ふかふかぁ」


 フェルパがアイシャの寝るケーキの土台のような丸いベッドに手を沈めて確かめる。うつ伏せに寝るアイシャも身体を沈めてはいるが、今度はダンジョンまで落ちていくことは無さそうである。


「居住区の外に出てまでお昼寝とは、ね」


 フレッチャもその貪欲さに呆れてしまう。マイムあたりはそんなもんだとアイシャの頭を撫でている。


「おおい、お前たち。ちょっと助けてくれないか」


 そんな少女たちに声をかける人物。ダンジョンで置き去りにされて、モグラもさっさと消えたあと仕方なくひとり階段を上ったベイルが出て来たのはベッドを取り囲む生垣状の茂みの向こうであった。


「ベイルさんなのです? そんなところでどうしたのですか?」

「わわっ、ちょ……こっちには!」

「ななな、何で裸なのですっ⁉︎」


 茂みから顔だけを覗かせていたベイルの首から下は何も身につけていない。何事かと駆け寄ってみたカチュワは、その裸身をモロに見てしまう。


「ベイルさん……」

「お前らそんな目で俺を見るな。お、追い剥ぎにあったんだよ!」

「追い剥ぎに! たしかにここは栗鼠人族の居住区の外。安全の保証はないと言われたが……」

「ベイルさんの趣味の可能性は消えていない」

「おっ⁉︎ マイムっ、てめえエルマーナに!」

「あたしは何もしてない。むしろベイルさんの露出癖の被害者。“ウォーターバレット”」

「冷てえっ! くそっ!」


 ベイルの裸身に恥じらいを見せたカチュワとは違い、横から脇腹に水を打ちつけるマイム。ベッドの側からは顔だけのベイルが怒ったり困ったり悲鳴をあげたりと気持ちの悪い光景となっている。


「じ、嬢ちゃんを起こしてくれ! 服をっ、服を作れるだろう⁉︎」


 宿に取りに行かせる事も考えたが、どのみちまた見られる上にその場合は他の人にもこの醜態を知られることになるのは避けられない。ならばこの状況の元凶であるところのアイシャにやってもらうのが良いだろうとの判断だ。


「アイシャちゃん、起きて起きて」


 サヤがいつものように優しく揺する。


「んー、あと5分だけ」

「それ絶対起きないやつじゃん。なんだかベイルさんが困ってるみたいなのよ」

「んー? ……なにあれ、モヒカンの精霊?」

「んなわけあるかあっ! いや、嬢ちゃん、すまねえが服を一着作ってくれねえか? いや、そんな事が出来るらしいって聞いていてさ、頼むっ!」


 アイシャとて一応の知らぬフリはしたが、どうにかはしないとな、とも考えていたのでベイルからお願いされればやりやすい。


「んー、よくわかんないけど仕方ない。”パジャマ作成”」


 例の如く勝手にストレージから出てくる素材は自動的にその形を作り上げていく。


「パジャマ、だと?」

「ほら、アイシャちゃんはお昼寝士だから。パジャマを作らせたら天下一品なんだよ」


 フェルパのフォローに「なるほど」と頷くベイルだが、それなら何故普通のパジャマではなく豊かな毛並みの上下一体な動物縛りばかりなのかとも思う。それは今作られているものも同じで、ベイルは頼んだのは失敗だったかと考えたりする。


「はい。みんなには見えないところで着替えてよね」

「お、おう、ありがとう。それならマイムを引き取ってくれや」


 アイシャが作ったパジャマを手渡すこの瞬間まで元気が有り余っているマイムの水球攻撃は続いていた。




 ベッドの上では靴を脱いだアイシャとサヤとマイムにフェルパが仲良く寝っ転がりその柔らかさを楽しんでいて、カチュワとフレッチャはモヒカンの精霊が見えない方を向いておしゃべりしている。


 その間にも茂みの向こうではモゾモゾとパジャマを着るような音と「なっ!」とか「これは、マジか」などという独り言が聞こえている。


「た、助かったぜぇ? 嬢ちゃん」

「うわぁ、可愛い……のか可愛いくないのか分かんないや」


 フェルパもコメントに困るそれは、全身茶色の着ぐるみパジャマで、手の先にはかわいい爪までついたモグラの見た目をしているが、出ている顔は世紀末なモヒカンだ。


「これは、うんこ?」

「いや、作ったのアイシャちゃんだしモグラだと思うし」


 アイシャの発言はただのいじりでしかない。それと分かっていてもツッコんでくれるサヤはいい子である。


「パジャマは可愛いのです。それに肩にぬいぐるみまで乗っているのですよ」

「本当だっ。アイシャちゃんいつのまにぬいぐるみまで?」


 カチュワとフェルパが言う通りモグラ着ぐるみパジャマ姿のベイルの肩には茶色のモグラが乗っている。


「いや、これはだな、ぬいぐるみではなくって──追い剥ぎが置いていったんだ!」

「追い剥ぎと物々交換したの⁉︎」


 どうにか帰ってこれたベイルもかなり消耗していたようで、ほかにいい説明も浮かばずに「もういいや」とそんな事を言ってしまう。


 それでもようやく全員が集まって、ギラヘリーへと帰ることになった。


「栗鼠人族と追いかけっこ、か。よくやるぜまったく」


 お昼寝していたと言うアイシャ以外が追いかけっこに興じていた事を聞きながらの馬車までの帰り道。フレッチャは隣を歩くモヒカン着ぐるみのベイルの顔が心なしか明るくなったと感じる。


「ベイルさんも何かいい事があったんですか?」

「ん? まあ、な。いや、とびっきりいい事なんだと思いたい出来事だな」

「少女に裸を見せつけたこと」

「てめっ! マイム……あれは不可抗力だ。っていうか全然気にせずに人を水浸しにしたくせに。エルマーナに報告するからな」

「ごめんなさい」


 森からの帰り道、元気な笑いが夕焼けの森に響いていた。


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