弾けろっ“アーリンッ” アダルトver
「じゃあダンジョンも攻略したしハナコちゃんも仲間になったみたいだし、もう帰ってもいいよね?」
『うむ、まあ我の用事もおおよそ済んだことだしのぅ』
アイシャはお昼寝が出来なかったし、運動も十分したわけでかなり眠気がきている。
「用事?」
『噂の君に会うこと。それと我の子どもを預けることかの』
「子どもなんだ……散々ペット呼びしてたくせに、それもうちの子の真似だなんて。けどまあ、なるほどね。じゃあハナコちゃんはこっちに──」
アイシャがハナコを受け取ろうとベイルの肩に手を伸ばしたところをハナコに噛みつかれる。
「いっ⁉︎」
『ほほう、ハナコはそっちのが良いのかのう』
「ハナモゲラっ」
「“僕”の眷属じゃないの?」
アイシャのすずらんを受けて小型化したのだ、当然アイシャの元に来るものだと思っていた。
『強い“男”が良いらしいの。ハナコは女の子じゃからの』
モグラ亜神は我が子の選択にそう納得するのだが、選ばれた本人が納得しない。
「“強い”なんてことは、俺は……強さならこっちのセイジの方がずっと強いはずだが」
ベイルは“男”のところはスルーする。あくまでも“強さ”を指標にして自分ではないと話す。
『うーん……? あながち間違いではなかろう。今はそんなだが、すぐに取り戻すであろうよ』
「すぐに、取り戻す──」
『うむ。我が保証しよう』
ベイルの靴くらいのサイズしかないモグラ亜神が立ち上がり胸を張って断言する。
「──俺は、戻れるのか。戻れるというのですか?」
そんな小さな存在の言葉にベイルはすがるように問いかける。
『戻れるよ。ハナコを倒した強き者よ』
「しかしっ、ハナコを倒したのは、それも俺ではなくって」
『お主よ。ハナコがそう言っておる。強きオスに惹かれたのよ』
ハナコをノックアウトした最後の攻撃。あくまでもアイシャの模倣をするベイルの攻撃はいずれもアイシャよりワンテンポ遅れていた。
ベイルは驚くほどに上手く身体が動いたことを借りもののチカラのおかげと思っていたが、本当のところはアイシャが“合わせて”と言った時にそういう風にベイルの身体が動くようにアーティファクトを通じて指示が出ていた。鏡写しのように動くようにと。
つまりはどこを取ってもベイルの実力なんてものはないが、その最後の攻撃自体を打ち込んだのは紛れもなくベイルの右脚であり、ハナコもベイルに負かされたと思っている。
「モグラは──そのために?」
アイシャは今回亜神の方から積極的に関わって来たことに、さっきのモグラの説明では納得などしていない。しかしわざわざベイルを巻き込んだことや、今のやり取りで“そう”であると確信する。
『噂の君に、会いに来ただけよ。ほれ、地上への階段を用意した』
そっぽを向いて話すモグラの表情は分からない。けれど思い過ごしかも知れないが、アイシャはこのモグラがそのためにこの場を用意してくれたのだと、そう思うことにした。
「けど、帰る前に──ベイルさんにはお願いがあるんだ」
「お願い、とは?」
ベイルもなんとなく察しているが、あまり口にすれば記憶をアレコレされそうで怖い。しかしそれ以上に隠したがっている目の前の人物のためにも、気づいていないフリを続ける。
「今回のダンジョンの件。話してもいいけど“僕”のことは伏せておいて欲しいんだ」
「──そうすると弱体化した俺の話に整合性が取れないが……しかし、わかった。約束しよう」
悩むフリ。ベイルは予想通りの申し出に予定通りの返事をしてダンジョン攻略はこうして終わりを迎えた。
「そうとなれば帰ろうっかな」
「ああ、色々と助かった。亜神様も──ありがとうございました」
『ただのオマケじゃ。気にするでない』
黒と赤の大小がモグラに別れを告げる。
「ああ、でもこれは解除していてもいっか。“アーリン”」
姿はまだ晒せないアイシャだが、戦闘も終わったならいい加減外してもいい。普段から軽装のアイシャには装具を身につけた状態というのは、どうにも違和感がある。
──あるのだが、今回ばかりは順番が違った。
「ん? なんだこの布きれは」
スパーンっと弾け飛んだ布と肩パッドのようなものの破片。ベイルはアイシャとリンクしたままに行われた“アーリン”で服が弾け飛んだのだが、“鬼の慟哭”までも合わさった強化状態のベイルはそのくらいの衝撃には気づきもしない。
“ディルア”でアミュレットの装具を装着しないまま“アーリン”を唱えた際のバグ(27話)は健在であり、黒いモヒカンの股間には垂れ下がるシルエットがある。
「な、ななな……」
『聞いていた通りの奴よの! その失敗作のアーティファクトはダンジョン攻略の報酬としてくれてやる。──おっと、取り付けた者でしか外せない不具合もあったな。我が外す故、心置きなく持って帰るがよい』
「まっ! 待って──!」
悪い笑顔のモグラ。焦るアイシャ。カチャリと外されるベイルの足枷。切られたリンク。解かれるベイルの強化状態。全身の黒と赤も消えて晒されるモヒカンの裸身。
「──っ!」
起こる惨劇を察知したアイシャは、それを見届ける事なく最高速で駆け抜け、ベイルを残して地上へと帰還した。