赤き鬼と黄色のモグラ
黒モグラの片方は相変わらずピクピクしている。ゲルに包まれた爪とは未だに魔力の繋がりがあって抜くことも出来ないようである。
ゲルの塊から降りてその前で構えたアイシャを接近戦黒モグラの爪が突き刺しにくる。
「はい、ドーンッ!」
アイシャが横にかわせば爪はゲルを突いて衝撃が両方に伝わる。当然遠距離黒モグラの方がダメージが多く痙攣はいっそう激しくなっている。
びっくりして手を引っ込めた接近戦の方は、身体はそこに残っているためにアイシャの後ろ回し蹴りをかわせない。
「グギィッ」
空いていた左の爪でガードして直撃は避けた黒モグラ。脚をスイッチしたサイドキックがまたも爪を蹴り入れる。
左のエルボーで爪を殴る。右の掌底が下から突き上げる。黒モグラの右爪が上から襲いくるが、冷静にバックステップでかわす。この時黒モグラは前のめりで回避行動など出来ない。
黒モグラが右爪を振り下ろしきったところで、自身の右腕が左爪を押さえ込んでいて、左脚は爪に隠れて使えない、右脚は蹴るにしても体勢が悪く繰り出すことも出来ない。つまり縛られた状態となんら変わらない無防備。
アイシャの左足が地面を強く蹴り、前への推進力となる。あとは右の膝を前に突き出せばジェットの如く相手を貫くニーキックが黒モグラの顔面に突き刺さる。
「グォポ」
鼻と額の間を打ち抜かれて、鼻血と口からの吐血をして顔面骨折は免れない手応え。
敵が背後に倒れる前に、空中でアイシャは黒モグラの首を掴み、頭の上で倒立の形になる。
「もう一丁っ!」
そこから反動をつけて回転し、腕でも引き寄せて黒モグラの額に改めて膝を突き刺す。返り血がアイシャを真っ赤に染め上げた。
「あっ、栗鼠人たちがやってきたよ」
「何周遅れなのかもう分からないのです」
サヤたちが何度目かの小休止を終えた頃には日がだいぶ傾いていた。
「アイシャちゃんは行方不明」
「たぶんまだお昼寝中だとおもぅ」
マイムとフェルパは未だにルミの魔術のおかげで元気で休憩もいらないのだが、サヤたちが休むなら付き合いお喋りに興じている。
栗鼠人たちがサヤたちの前を通り過ぎたあとで、こちらも追いつけないのかクレールが来てすぐ後にフレッチャが駆け抜けていく。
「フレッチャちゃんはクレール先輩に追いつきそうだね」
「速さでは勝ってるってことかな?」
2人が通り過ぎたのを見てサヤたちも追いかける。
「後でアイシャちゃんも探さないとね」
「うん、そうだねー」
仲良しチーム“ララバイ”はリーダーのお昼寝に寛容である。
「ストレージに入ったって事はこっちのはお終い。あっけなかったね」
そうなると残りは痙攣しているアイツだけである。
「さっさと仕留めてベイルさんを助けなきゃ──」
遠距離黒モグラの方を向いたアイシャは、相変わらず痙攣している姿に思わず声を失う。
黒モグラはやはり小刻みに震えているのかというとそうではない。むしろ震えは大きくなり、全身の毛も逆立っている。皮膚の裂け目は大きくなり、より大量の魔力が放電しているかのように辺りに飛び散っている。
「ギャアアアアアッ」
悲鳴のような叫びは痛みからだろうか。放っておいてもそのまま自壊しそうな見た目だが、地面から爪を抜き取った黒モグラは今は黄色モグラであり、むしろ雷モグラとでも言った方が正確かもしれない。
「ンゴオォォ」
顎が溶けて落ちるほどの熱。爪は全て健在で、一本一本の爪の間を魔力の筋が行き交うのがチラチラと見えている。
「もはやモグラじゃないじゃん──」
独り言を口にしている間に、モグラは間合いをゼロにしてその凶悪な爪を振り上げアイシャを襲った。




