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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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始まったばかり

 まだ5mはある間合いを一歩で詰めたアイシャは左腕のフェイントで魔物のガードを誘い、右のストレートでガードごとに魔物を打ち抜く。


(足の回転、蹴り出して腰の回転、肩、腕。きちんと繋がって今は強化と装具もつけている。紛れもない先制の全力ストレート)


 これまで苦戦したのは大鬼の時くらいで、その大鬼さえも結果だけを見れば一撃で首を刈り取った。


「左の爪だけでも破壊出来て良かったと思うべきなのか」


 両手でのガードが間に合った魔物は上になっていた左爪を根本から失い、その衝撃で後ろに下がったものの、よろけながらも繰り出した前蹴りがアイシャの胴に突き刺さっていた。


「足にまでおんなじ爪があったら終わってたかもしんない」


 それでも小さく尖った爪はアイシャのお腹に4つの刺し傷のようなものを刻んでいる。


「その顔、まるでモグラだけど。ゴリラかモグラかハッキリして欲しいね」


 腹の痛みが表面だけでなく中にまで届いていることを教えてくれる。


 少し後ずさって痛がるそぶりを見せたアイシャにモグラはお返しとばかりに残った右の爪で突き刺しにかかった。


「ふっ!」


 そんな見え見えの突きはアイシャの右フックが出迎えて弾き、苦し紛れの左の蹴りはアイシャが合わせた左足でスネを砕かれる。


「だらっしゃあっ!」


 今度こそ、アイシャの右腕は魔物の顔面を横から捉えて、伝わった衝撃は首を捻じ曲げ胸を突き抜けて腹まで貫通する。


「──ふぅぅ」


 ザッと構え直して息を整えてアイシャが「捧げる」と言えば魔物は光の粒となってギルドカードとアイシャに吸い込まれて腹の傷を癒した。




「いまの魔物は何だったんだ」

「──モグラだね」


 相対したその印象をそのままにベイルに伝えてアイシャは足元に落ちている砕かれた爪をひとつ拾いベイルに渡す。


 アイシャの肘から指先くらいの長さはあるだろう爪は先端を軽く湾曲させた形でそこ以外は丸みを浴びた三角形の断面をしており色はくすんだ半透明のオレンジと茶色の縞模様である。ベイルに渡した残りはストレージ行きだ。


「なかなか硬かったし鋭いね。斬られたら痛そうだ」

「ううむ……さっき食らった蹴りは大丈夫だったのか?」


 ベイルはアイシャが一撃食らった辺りを見るがそこにはすでに傷ひとつない。


「問題ない。行こう」


 手振りで爪をくれると伝えられたベイルはポケットにしまってアイシャの後に付いていく。


「俺が戦えたならどのランクかあたりを付けることも出来たんだが、な」


 ベイルにはアイシャの初手から反応出来ていない。それに対応した魔物ではあるが、やはり傍目には簡単に勝ってしまったアイシャのせいで魔物が強かったのかどうか判断が出来ないようだ。




 分かれ道のないまっすぐなだけの道を進めばまたモグラの魔物が立ち塞がる。


「しっ!」


 同じフェイント、同じストレート。またも出された前蹴りは下がってかわして、今度はその足を掴んで引きながら回転させて壁にぶつける。


「せいっ!」


 無防備な背中にサッカーボールキックを打ち込めばそれだけでモグラの生命活動を停止させてしまう。


「今回は一方的だったな」


 アイシャはそれには答えず先へ行く。


「また、一方的」

「もう一度だけ試すよ」

「ああ、頼む」


 ベイルにもアイシャの考えていることが伝わったのか次の一体で一旦の結論を出すことに異論はない。


 曲がり角を通過したアイシャたちの前にモグラは現れて、フェイント、ストレート、かわした前蹴りを掴んでの叩きつけ、蹴り。ここまで8回繰り返した同じ流れ。


「もう決まりだな」

「うん。こいつらは、同じ考えで判断して行動している」


 今9体目のモグラがストレージに収まると2人は同じ結論に至った。アイシャも最初からそのつもりだったわけではないが、様子見で放つパンチへのモグラの取った対処があまりにも同じだったために、その後の投げて蹴るまでも同じかを試しているうちに至った結論である。


「なんてこった。同じなのは何もダンジョンの造りだけじゃないってことか?」


 それはつまり地下階層を攻略しかねている多くのダンジョンで、魔物の攻略法を見つけられる可能性を指し示している。


「全てが同じとは限らないけれど、ね」

「セイジさんよ。あんたのおかげでダンジョン攻略の希望が見えたんだ。感謝するぜ」


 ダンジョンと呼ばれる謎空間はそこにあるというだけで別に放置していても悪影響はないとされている。しかし高いスキルポイントを有する魔物とアーティファクトが手に入る可能性を秘めているのだ。資源としての使い道が開けるならそれはそのまま人間族の戦力増強に繋がる。


「それも無事に帰ることが前提だけどね」

「そりゃごもっともだ」


 帰れるかどうかはベイルからしてみれば目の前のセイジに懸かっている。手放しに喜ぶには余りにも自分が無力でベイルは歯痒い気持ちでいっぱいである。


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