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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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普通ってなに

 リコ邸に帰り着くと晩餐はリコたちとリコパパ、リコママのみでのもので、木の実の削りかすが落ちてくることもなくごく当たり前の食事ができた。


「豪邸でもお風呂はさすがに普通のサイズらしいね」


 フレッチャの想像する普通のとは少しサイズが違うが、部屋のペアで入ることにして今は他の部屋が風呂を済ませるのを待っているアイシャたち。


「ベッドが少しかたい」


 靴を脱いでボフッと飛び乗ったアイシャの文句である。


「まあ、この現状で人数分あるだけでもありがたいよ」


 今日一日見て回った街の惨状は、暮らしている人たちこそ笑顔で過ごしているが、普段平和にシャハルで過ごしているフレッチャからすれば悲惨な状態でしかなかった。そんな中で多少のことは仕方ないと思うのは当たり前かもしれない。


「でもね、私はお昼寝士なんだよ。健やかな眠りのためにはこれではダメなのだよ」


 真面目に宣うアイシャだがその体勢はベッドの上でうつ伏せのままだ。


「けどよく考えたらお昼寝士だから、夜のおやすみは関係ないんじゃない?」

「……」

「ね? どうなんだろ」

「夜に気持ちよく寝れなくて昼間に寝られるはずがないわ。だから夜のおやすみの追求も大事なのよっ!」

「そ、そうなんだ」


 布団に顔を埋めたままの声には、えもしれぬ迫力があった。




「というわけで、このベッドはドボンよ」


 アイシャはそう宣言して備え付けのベッドをストレージにしまうと


「“お気に入り寝具セット作成”」


 セットものとして組み込まれているベッドとふかふかお布団、枕、抱き枕、ぬいぐるみ、おやすみ三角帽子までもがその技能ひとつでストレージから自動生成される。


「お昼寝士は寝具屋にでもなればいいんじゃないのか?」


 フレッチャは先日の魔除け作りで見た時とは比較にならないスピードで作られた寝具セットに驚き呆れてそんな事を提案してしまう。


「だめなのよ。それするとベイルさんたちの監査が入ってとんでもない金額になっちゃうから」


 喫茶“ララバイ”の時や武器屋の時のようにアイシャの求めてないほどの金額を手にしかねない。


「王様とかに見つかって奴隷にされたりしたら困るもの」

(アイシャの世界観はどうなっているんだろう……)


 フレッチャからしても不思議で、普通に金儲けをすればいいのにといったところである。


「お風呂あがったよー、次はアイシャちゃんたちね」


 ドアをノックして応じたアイシャたちに顔を真っ赤にしたフェルパとマイムが順番だと教えてくれた。


「のぼせてない? 大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だよ。じゃあ、わたしたちは寝るね」


 フェルパとマイムは「おやすみ」と自分たちの部屋に戻る。


「じゃあ私たちも行こうか」

「そうだねー」


 長風呂でもしていたのだろう。2人で入ればかかる時間も倍になるのかも知れない。フレッチャとアイシャは言われた通り風呂場へと足を運んだ。




「普通のお風呂、というには少し大きいね」


 湯船は2人で入ってもまだ少し余裕のありそうなサイズに洗い場は2人分ある。


「これなら長風呂にはならずに済みそうだね」


 フレッチャは早速と頭を洗い始める。長い藍色の髪は洗いがいがありそうで、ここぞとばかりにアイシャが手伝ってあげる。


 そうしてお互いの髪を洗い、身体は自分で洗って湯船に2人で浸かり100数えてあがれば、あとは身体を拭いてサヤたちに交代を告げて部屋に戻ってきた。


(何かがおかしい⁉︎)

「いや、何もおかしくないよママ」


 どこか釈然としない顔のアイシャにルミが当たり前だとツッコむ。


「え、あ……それもそうか」


 風呂に入ってサヤといちゃつき、マイムとは医務室でいたしたり、お外でもいたしたり、フェルパとも。


「何だかおかしくなってたみたい私」


 危ない危ないと髪を乾かして、頭にはてなマークを浮かべたフレッチャとおやすみを言ってベッドに潜る。


 静かな就寝時間が訪れる。ベッドは2つあって別々に寝る当たり前のおやすみタイム。


(でも何だろ。私はなにか違うとか思ってない?)


 なんとなく違和感を感じてアイシャは寝返りをうちながらなかなか寝付けずにいた。


「アイシャ、起きてる?」


 そんなアイシャに小声で話しかける人物がいた。当然それはフレッチャであり、アイシャは「起きてる」と答える。


「やっぱりアイシャのベッドが良さそうだから……その……」

「じゃあ一緒に寝ようか」

「ありがとう」


 そうして、フレッチャはアイシャの布団に潜り込み、即寝した。


(何だろ、何かが──)


 アイシャは答えの見つからない疑問に頭を悩ませるのだが、それでも隣に体温を感じて穏やかに寝付く事ができた。


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