真夏に舞い落ちる粉雪、もしくは削り節
「ようこそいらっしゃいました──」
到着の時間を知らせていたりしたわけではないリコたちだが、いざリコの家に上がれば食事の支度が整った食堂へと真っ直ぐに案内されて人数分よりはずっと多い席の一角へとついていた。そんなリコたちに声をかけたのがリコパパである。
「娘がいつもお世話になっているお友だちに、本来なら私の方が挨拶に伺うべきではありましたが」
リコの髪色と同じ白に近い銀髪を短く刈りそろえた角刈りのリコパパはラストな侍を演じるハリウッドスターのような顔つきで、丁寧に挨拶をしてくれた。
「お父様、なぜお食事の支度が出来上がっているのでしょう?」
「リコの帰りはいつでも分かるからな」
リコパパが歯を見せてニッと笑えば白く輝いて眩しい。
「──というのは冗談で、昼どきだから全員分の支度があっただけだよ」
「全員?」
ほどなくしてゾロゾロと大きな食堂に入ってくる人間族と栗鼠人族の一団。手洗いうがい、顔まで洗って汚れを落とすと順番に席についていく。栗鼠人族などは歯磨きまでしている。
「修復してくれるみんなにはこの屋敷だけでなく各所で食事を提供している。過程がどうあれ、今は手を取り合う仲だからね」
アイシャたちには少し手を加えたちょっとだけ贅沢なものが。人間族の作業員はご飯と汁椀になみなみと入った具沢山スープが配られる。
「栗鼠人族は、あれでいいのね……」
「むしろこの辺りで取れるものはそのうち無くなるだろうから、栽培を進めつつ他所からの仕入れに頼っている始末だよ」
サヤの呟きにリコパパが答えてみんな仲良くいただきますをして食べ始める。
ガリッ! ガリガリガリガリ……
一斉に響く何かを削る音。何かなんてのは分かりきっていて、栗鼠人族の皿の上に乗せられた桃くらいの大きさはあるクルミの殻を前歯で削る音だ。
「前にね、大変だろうからってナタでこう……パカーンって割った中身を並べたことがあるんだが……あの時はもの凄く寂しそうな顔をされたものだよ」
それ以来、硬い殻付きの木の実を出すようにしたのだとか。
「あっ、カケラが降ってきた」
栗鼠人族はその習性からひと通り硬い殻を前歯で削って中身を取り出すのだが、それを一斉にされると宙にはそれなりの量の削り粉が舞う。
「出来れば気にせずに食べてくれるとありがたい。殻の栄養も捨てたものじゃないから。ベイルさんはどうもダメだと言っていたけど」
そう言っているリコパパの皿にはどんどんと削り粉が入っていく。アイシャたちの皿はまだマシな方らしい。
「なるほど、それでベイルさんは来なかったのね……」
今更にベイルの真意を知ったアイシャたちだがその時にはもう遅い。細かく削られた殻はアイシャたちの皿にも降り注いで彩りを付け足す。
「でもあの顔見たら文句も言えないのです」
やっとこさ殻を割って中身を取り出した瞬間の至福の顔は、人間族の少女らをして愛らしいと思わせるものであった。
その笑顔につられてか、若い彼女らは決して嫌がらずに削り粉だらけな食事さえもキャッキャと楽しく過ごしてリコパパを安心させてみせた。