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今度は心穏やかな道のり

「局長から短期バイトだなんて呼ばれたと思ったら嬢ちゃんたちのお守りとはな」


 ベイルはそれでも嬉しそうな顔で目の前に並ぶ少女たちを前に馬車の準備を完了させる。リコの家で魔除け作りをしたメンバーがそのまま今回の旅の参加者である。


「この間はドタバタだったしね。もう少しゆっくりと見て回りたかったからさ。それに──」


 振り返るアイシャはリコの手を取り


「夏休みなら帰省してもいいんじゃない?」

「シャハルで過ごすからって帰ってきたばかりなのにすみません……」


 そんな事なら残ればよかったのにと言われてもおかしくないほどすぐのギラヘリー行きに申し訳なさが勝ってしまうリコはつい謝ってしまう。


「というのは口実で、他のみんなはギラヘリーに行ってなかったから行きたいってなったのよね」

「なぁるほど。まあそういう事なら任せておけ。ついこの間行ったばかりの道だ。のんびり馬車の旅でも明日の昼までには着く。それに例の魔除けも持ってるんだろ?」

「可愛いの作ったから今回はこっちね」


 アイシャは作りたての熊のぬいぐるみをベイルに差し出す。ストレージから取り出した瞬間にサヤたちが震えたのはきっと気のせいだ。





「あ、ベイルさん。あそこの洞窟ってなんなの?」


 アイシャは前回の疑問を洞窟の前を通過する際にベイルに尋ねる。


「あそこはダンジョンだ。ちょうどシャハルとギラヘリーの間にあるために共同で管理している。入場も退場も管理していて中は地上階だけ掌握できている状態だ」


 朝から出発した馬車はサヤたちの楽しげな会話を乗せて走り今はもう日が傾き始めた時間である。


「ダンジョン──って何だっけ?」

「まあまだ知らなくてもおかしくはないんだが」

「いいえ、ベイルさん。アイシャちゃんのこれはダンジョンていう単語から知らないパターンです」


 アイシャの疑問がどのレベルのものかは幼馴染なサヤにはお見通しである。「さっすがサヤちゃん」とハイタッチしているが、その実サヤにも呆れられていたりする。


「ダンジョンてのは地下に広がる迷宮だと言われている。大抵は2階層で成り立っていてどちらも地下なんだが便宜上“地上階”と“地下階”と区別している」

「迷宮? そんなにごちゃごちゃしてるってこと?」

「地図無しにむやみやたらと歩けば迷子になって出れなくなるくらいには、な」


 ふぅん、と返事するアイシャには何のことやらさっぱりである。


「ただの迷路ってことなのかなぁ」

「アイシャちゃん、ダンジョンには魔物が住んでる」


 マイムはそう言うが、それこそ魔物などはどこにでもいる。わざわざ言うことでもないだろうにとアイシャは不思議に思う。


「そうなんだよね。最低でも危険度Bから上しかいないとか」


 フェルパもそう言って怖がるフリをしながらアイシャの腕に抱きつく。


「その危険度って確か人間族の領土で確認出来ているのでC以下、だったっけ」

「それは知ってるんだね、えらいえらい」


 甘やかすサヤとフェルパからそれぞれ頭を撫でられてご機嫌なアイシャ。


「あれ? じゃあAとBは?」

「それこそがダンジョンに巣食う魔物の分類と言っても違いねえ」


 外には野生動物である普通の魔力を持たない獣がいて、それらと見た目に変わらず魔力を持った獣が魔物と呼ばれ恐れられる。危険度の分類としてキファル平原の通常個体の熊あたりでやっとCに届くくらいだとか。


「もし外でB以上の目撃があれば捜索隊が組まれる。例えば──いつだったか嬢ちゃんが見たって言ったコカトリスとかな」


 そういえばそんな事があったね、とアイシャは納得する。だとすると大鬼も双頭の熊もその辺だろうかと。


「そんなのしか居ないダンジョンて、もしかして相当危険なんじゃない?」

「やっと伝わったか。だからこそ入退場を管理しているし、ギルド員の派遣もしている。地上階層でB、その下にはそれ以上がいる」


 アイシャ以外のみんながゴクリと唾を飲む。


「だから入れるのはある程度強くて実績のあるやつだけだな。クレールも最近入れるようになったが、アイツで1番下だ」


 話はその辺りで終わり、日が暮れる前に野営の準備をしようとなって馬車は止まる。




「ベイルさんは料理も出来るのですっ⁉︎」

「簡単なものだけだ。馬車でなら色々と積めるからな。まだ割とマシな内容にはなっているはずだ」


 リュックひとつで旅するわけじゃない。馬車には鍋やら食器やらも積んであり、周りが女の子ばかりということもあって、おっさんベイルは多少なりその献立に気をつかっている。


「パンとスープにサラダ。串焼きは鳥ですね」


 リコも想定よりもずっと充実した内容に嬉しそうな声を上げる。


「ああ、口に合うといいんだがな」

「これで美味しくないはずがない」


 マイムはすでに自分の分のスープをよそって食べている。ゴロゴロ野菜と牛テールの煮込みは高い満足感を与えてくれる。


 暇になれば食堂でも開けば? などとアイシャに言われたりするくらいには美味しい食事をして交代の見張りで過ごす野営は何事もなく翌朝を迎えた。


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