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脈打つ

「それでここに集まったということなのですね」


 カチャと軽い音を立てて上品なティーセットが人数分並べられていく。


「秋には授業であるんだけど、夏休みの間に作って提出したら採点を多くしてくれるそうだから」


 淹れられたお茶はダージリンティーでルミのお茶のような華やぐ香りこそないが、上品な茶葉の香りはいかにも高級品といった感じである。


「あたしもせっかくだから参加する」


 ひょいとつまんだ角砂糖を入れて程よい甘さになったところでマイムは口にする。


「わ、わたしはかわいいぬいぐるみが作りたいし──」

「それに私たちにぬいぐるみ作りを教えてくれるんだよな」


 モジモジして答えたところに期待の声が掛かる。


「か、カチュワも是非学びたいのですっ」

「それでチーム“ララバイ”がみんな夏休みの初日にわたくしの家に勢揃いなんですね」


 いつかの鍋パーティー以来、たまにこうして集まっては女子会のようなことをしているメンバーたち。


 そしてこういう何の目的でなのか、という確認はリコが仮住まいとしている街所有の建物を使う上での形式上のことであり、大抵はそのあとどうでもいいことが行われている。


「まあ、リコちゃん。今回は本当にその内容だからよろしくね」


 チーム“ララバイ”のリーダー、アイシャはその“どうでもいいこと”をする筆頭なのだが、今回だけは申請している用途通りである。




「ところで、何故夏休み中に作れば採点が高めになるのですか?」

「まだ習う前だと出来が良くないのが多いから、高めにつけて学んだあとに出来たものについた点数と比べて高い方を選べるらしいよ」


 リコの質問にはサヤが答えた。そんなチームメンバーの前ではいま、アイシャ先生による実演が行われている。


 テーブルにポッカリと空いた穴からは、市販の生地と糸、針、綿と羽毛、それに薬草や香草、木の実と“ワタ”が出てきて自動で作られる光景が広がっている。


 赤黒い“ワタ”は瑞々しく、その血の色を綿で包み薬草と木の実がすり潰されてその周りを塗り固めて生地が包むと丸いピンポン玉サイズとなる。


 そのピンポン玉をさらに香草と綿が混じり合い、羽毛が閉じ込めて裁断された生地に囲われて針が走れば胴体が出来る。あとは普通の中身の頭と手足がくっついてアイシャ特製の“呪い人形カーズくん”ミニの出来上がりである。


「こんな感じかな?」


 かつて職人ギルドに行くために編み出したアミュレット効果で速さを誤魔化す手法は効果を発揮していて、材料や各工程の説明をいれながらレクチャーしたアイシャの作成時間は15分である。




「ク、クラフトってすごいのです。こんなに簡単に──」

「カチュワちゃん、アイシャちゃんのクラフトはわたしたちのとは全然違うからね。何度か見てるけど理解不能なんだよ」


 フェルパはお昼寝士がクラフト系だといいなと思う反面、もしそうだとしたら“やってられない”と思うほどにはアイシャのそれは常識を外れているとも思っている。


「私も初めて見たな。こんな技能があるとは」

「本当に魔術じゃないの?」

「アイシャちゃんのお昼寝士の謎は深まるばかりだよねえ」


 材料については比較的普通のものが使われている。街で普通に買える裁縫関係はみんな持参しており、今回のその他のものについてはアイシャが提供することになっている。


「はいはーい、配っていくからね。これが──」


 アイシャ先生はゆっくりとなった技能の工程についてざっくりと説明を入れてはいたが、その材料の名前までは把握していない。ストレージの中から勝手に選ばれて必要十分なものが作られてしまうのだ。だからみんなに教えるのにルミが“名前が見える”チカラで補足している。


 これが──とか、何処かで見た気がする──とかいう呟きは当然で、何もかもが特別ではなくアイシャがみんなと行動した範囲に生えていたり落ちていたものばかりだ。


「私も別にそのつもりで集めてたわけじゃないけど、なんか効果があるみたいなんだよね」


 アイシャの小さい頃からのなんとなくの収集癖がストレージの中身を潤沢なものにしている。




「──あとは、これも配っていくね」


 ルミの支給は最後の1つとなった。ここまでが大まかに外側で、それは核となる中心のアイテム。赤黒く脈打つかの様な手のひらサイズのそれは、まるで今抜き取って押し固めたかのような新鮮さ。


「何これ。いや、分かるんだけど分かりたくないみたいな」

「“ワタ”だよね」

「“モツ”と言ってもいいかも」

「ねえ、ルミちゃん。この赤いのは一体……」


 アイシャの説明にもあり、ルミが“ワタ”と呼んだ球体のビジュアルに少女たちがざわつく。


「キファル平原詰め合わせだよっ」


 材料が並べられていく中で何度もカーズくん製作を始めてはパージさせて、その中からわざわざそれだけを抜き取る事を人数分こなしたアイシャは眉間に皺を寄せて汚いものを見る目で“キファル平原詰め合わせ”を眺めている。


「爽やかさなんて皆無だね」


 アイシャたちは魔物の群れにお祭り状態だったが、サヤたちの場合は程よく魔物の出てくる静かな場所で時折吹く風が心地よかったキファル平原は、何故か怨嗟を押し固めた様な禍々しさを放っていた。


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