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引き分けた大人と子ども

「ここにきてさらに謎が増えるのか? ちょっと頭を貸せ」


 言われて差し出したマケリの頭をまな板専用でポコっと叩く。


「光らんではないか。エスプリ」


 ポコンと。ベイルの頭もパコンと叩いて光らないことを確認したバラダー。


「謎の物体は謎のちんちくりんに反応するのか?」


 頭をさするアイシャが視線を上げるとそこには悪い顔をした大人がいたそうだ(アイシャ談)


「いっつぅぅ──っ!」


 スパコーンっといい音を立てて叩きつけられたまな板専用パッドは今度はバラダーもその発光を目にすることが出来て、アイシャはまたも痺れてのけぞる。


「やはりちんちくりんにだけ──」

「どう考えても威力が違っただろうって!」


 理不尽な検証にはアイシャも怒り、マケリのお尻型パッドでバラダーの腹を横殴りに振り抜く。


「うぐっはぁ!」


 ドコーンと妙な音を立てて振り抜かれたケツマケリはアイシャが叩かれた時よりも強く発光して、現役を退いているとはいえ未だにベイルも敵わずクレールを片手でいなす男に並々ならないダメージを通した。


「こんのお、ちんちくりんがあっ!」


 仕掛けたのは自分なのに間髪入れずアイシャの頭をまな板専用で叩くバラダー。ズドンっと鈍い音で激しく光るまな板専用。


「あいだぁっ! よくもやってくれたわねっ」


 アイシャは下から正中線に狙いを定めて振り抜いたが、その先はバラダーの股間。


「ふんぐううっ!」

「髭のちんちんが光ったっ⁉︎」


 そんなことはなく光ったのはケツマケリなのだが、そのビリッどころじゃない衝撃はバラダーを下から貫き苦悶の表情を浮かび上がらせる。


「ここらで教育を施すべきなんだろうなっ!」

「大人げない大人にねっ!」


 アイシャのケツマケリとバラダーのまな板専用がぶつかり発光する。柔らか素材の武器は互いの衝撃に弾かれてしまうが、ふたりともがその勢いのままに逆回転してまたぶつかる。


 アイシャとバラダーが戯れ合うより先に、すでにソファとテーブルはベイルたちの手で部屋の端に寄せられている。


「周りこそ見えているが、局長のあれはまさか本気か?」

「本気の局長なんて私が入った頃には武勇伝でしか聞かされてないわよ?」


 ベイルとマケリが話すその前では弾力を活かした高速戦闘が行われている。クッション同士が当たるたびに青白い稲光が迸り、身体に当たるたびにバラダーが苦悶の表情を晒して、アイシャがのけぞる。


「局長が本気かどうかはいいとして──」


 ズババババンと連続して聞こえる音は互いが直撃を受けても退くことなく続いている。


「それに正面からやりあえるアイシャちゃんて」

「マケリさん、その……ノームちゃんが“その件については一切の口外も推察も許されない”って言ってるわ」

「何それ、精霊の逆鱗に触れるとか? どんな存在なのよアイシャちゃんて」

「いえ、マケリさん。精霊のじゃなくて──アイシャちゃんの知り合いの亜神全ての、らしいわ」

「……私は何も見ていません。まだ生きたいです」


 部屋に轟く雷鳴と稲光はギルドで働く職員たちを不安に陥れたりもしたが、10分ほどで鳴りやんだことで、どこかで通り雨でもあったのかといって大きな騒ぎにはならずに済んだ。




「はい、お疲れ様」

「うむ」


 ソファもテーブルも戻されてまだ息の整わないバラダーとアイシャがルミのお茶でひと息つく。


「なかなか有意義な検証が出来たな」

「そうね。結果としては私の方がリードしてるかな」

「何を……そんなアフロみたいな頭で。満身創痍のくせに」

「んん? 髭こそ頭にアイパーなんて当てて。痺れすぎたのかな?」

「これはオシャレだ」


 そんなはずなかろうに、アイシャとバラダーはお互いの猛攻の結果として見た目が昔のコントのようになっている。


(((なんでそうなるんだろうか)))


 発光よりも音よりも2人の頭の結果が1番謎だとベイルたちの頭を悩ませる。




「まあこの結果も持ち帰って調べさせるとしよう。ベイルの処遇は追って伝える。今日はこれで解散だ。ちんちく──アイシャも助かった。ありがとう」

「まあ、ベイルさんのためだもん」

「──まあ、そうだな」


 少し残念そうな空気の漏れるバラダー。ベイルたちはそんなことに気づきもしないが、アイシャだけは敏感に感じ取っている。


「バラダーさんにも、そうだね──お土産はあるよ」

「ん? 何の話だ」


 アイシャはストレージから皐月のスケッチブックとは名ばかりの謎アイテムを取り出すと、そこから一枚のイラストをプリントアウトして手渡す。


「出かける前に約束した“お土産”だよ」

「んぐっ!」


 アイシャはそう言い残して局長室を後にした。




「局長、それはまた何ですかい?」

「気になる気になるー」

「私にも見せてください」


 3人のギルド職員はバラダーの後ろに回って覗き込む。


「これは……局長、いよいよ──」

「違う。これはあいつが……いや、隣町の街長の娘の肖像画だ。額に入れてそこに飾っておけ」

「了解です!」


 バラダーはマケリの返事を聞くと額縁を取りにさっさと部屋を出てしまう。


「局長は独身を貫いているが、まさか、な」

「さすがにそんなことはないんじゃない? でもこのアイシャちゃん可愛いなぁ」

「そっちなの? リコさんの方じゃなくて?」

「や、そっちもだけども。こっちのマイムちゃんもみんな可愛いよ」


 アイシャが約束したお土産は“リコの笑顔”。ただそれは帰りの馬車でアイシャとマイムに膝枕するリコの姿で、アイシャに欲情して良からぬことを企む笑顔であることは誰も知らない。


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