男に負けたアイシャ
「私は何もしていない」
「俺に呼ばれたら尋問が始まるとでも思ってんのか」
「あながち間違いじゃないでしょ」
アイシャはいま呼び出しを受けてギルドの一室に通されその男と対面している。ただの子どもを書面ひとつ、使いの職員1人で呼び出すようなマネは街長でさえ不可能であり可能とするのはもっと上の立場にある人間。
「バラダーさんの呼び出しはろくなことがない」
「それは俺のせいじゃねえ」
ろくでもないことをするから呼び出されるのである。
「まあ、今回は本当にそんなことじゃねえ」
「──じゃあどの子を紹介しろっていうのさ」
「あ? ──あ」
いきなりのアイシャの発言の意味がわからずアイアンクローでもしてやろうかと思ってみたアホの子が指で指し示す先には、局長室で唯一額にいれて飾ってある絵画というかイラストがあり、そこにはあられもない姿の一歩手前みたいな少女たちが描かれている。というかアイシャたちである。
「これはだな──」
「局長、嬢ちゃんのペースに飲まれちゃあ……」
「くっ」
アイシャが絡むと普段では決して見ることのない局長の姿を苦笑いしながら指摘するのはベイルだ。
「本題にはいろう」
バラダーは懐からあるものを取り出してテーブルにおく。ぷるんと揺れるふた山のそれはアイシャも見覚えがあり、ベイルは苦しい記憶が呼び覚まされる。
「髭の女装趣味っ──!」
「んなわけあるかあっ!」
「だってこれって私が付けてたリアルパッドじゃないのっ! こうして、こう──ほらピッタリじゃないのさっ!」
「なんっ、だと……なんとなく胸元に収めていて真っ平らな内側を俺の胸板が変形させていたのに、それが、そうだと言うのかっ⁉︎」
アイシャがその胸に当ててちょうどフィットする形状は、バラダーの胸のサイズよりも小さいらしい。
「うわあああっ、私よりも髭の方がサイズが大きいとか、そんな辱めを与えるために私は呼び出されたのっ?」
「やかましいっ、見事にフラットな平面に凹みだけがあると思ったら──」
バラダーはそれを何か取っ手でもつけるためのものかと思っていたとまで言うが、もちろんそんなことはない。
「ああっ! ああっ! 私の乳首の大きさまで把握してるのねっ⁉︎ なんて事っ、もうお嫁さんに行けないぃっ」
「お前のような喧しいちんちくりんは嫁の貰い手などないっ! 行き遅れたら俺が飼ってやるから泣くのはやめろっ!」
無茶苦茶に喚くアホの子に、黙れと吠える髭の中年。しかし言い方というものがある。とりわけ、その収め方というものが。
「局長、いま──なんと?」
「この髭はまさか──」
「……失言だ。死ぬまでここでこき使ってやると言ったんだ。他意はない」
「さて、この青い物体なのだが──おい。ソファを元に戻せ話しづらい」
「いやよ、ロリコンにはむやみに近寄るなってパパに言われてるもの」
「ぐっ……」
アイシャは自分の座るソファをテーブルから引き離して物理的に距離を取っている。それはもうほとんどドアに近づけるほどに。なので──
「局長ぉ、お呼びですかぁ」
「エスプリ、ノックはしろ。だが今回は許す」
エスプリの見下ろす先には突然開いたドアのノブで頭を強打して悶絶するアホの子がいた。
「これについてエスプリの精霊の意見を聞きたい。どうせそのちんちくりんは黙秘を決め込むだろうからな」
「決めつけは良くない」
「ならこれは何なんだ?」
「知らない」
「エスプリ」
結局想定通りに口を閉ざすアイシャの相手を長々とする気もない。
「ふふっ、まあアイシャちゃんが知らなくても仕方ないですよ」
バラダーとアイシャがやり取りをしているうちに既にノームから聞いているエスプリはアイシャを少しだけ庇い話を続ける。
「それはどうやら海底の澱みを固めたもの、らしいです」
「海底の澱み──っ!」
バラダーは見慣れないそれに多少の警戒はしていたものの、魔力も何も感じないことから無害だと判断していた。
「なら、これは魔物の種かっ」
「いえ、局長。それにはもう魔力は残ってません。ただの塊です──」
「ただの……」
「澱みだったものの、残滓」




