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美しき友情

「ちょっとどんな魔術を使ったっていうのよ──」


 ベイルが使いに出したクレールからの報告で、街の南方シャハル方面を警戒していたエルマーナたちがギラヘリーへとたどり着く。もちろんその事もすでにシャハルのギルドへ報告済みである。


「別に魔術なんてもんじゃなくお互い理解し合った結果っていうのか」

「理解、ねえ──」


 ベイルもどこから説明したものかと無事で済んだモヒカンをガシガシと掻きむしり答えるのだが、街のあちこちが破壊された現状にエルマーナは話し合いなどが行われたとは到底思えずにいる。


 それになによりも。


「あの時計台、どうなってるってのよ」


 この街の1番高い位置にある時計台はその高さ50mを誇り、高層建築などほとんどないこの街のシンボルなのだが、今はその頂点に夕陽を受けてオレンジ色をその全体に煌めかせる、氷の彫刻を思わせる百合の花が咲いている。




「はいはーい。ちゃんとヘルメット被ってね。ベルトもついてるけどちゃんとここを握っててね」

「そう、ちゃんと握る。こんな感じで」

「マイムちゃんっ、お子さまに変なこと教えないのっ。しっかり握ってるんだよ。じゃあ、レッツゴーっ!」

「きゃあーっ!」


 エルマーナが見上げて嘆息をつくのはなにも百合の彫刻のためだけじゃない。皐月はそこに至るまで街を大きく回りながら高度を上げてたどり着き、その軌跡は氷で螺旋を描いている。平たくいえばガードのない長く円を描く滑り台となっている。


「ハスの花ってこんなに安定感あるんだね」

「ママ、もちろん私の魔力で咲かせたからなだけで、普通はそんな事ないからね?」

「必要ならアイシャちゃんはあたしが抱いて滑ってあげるよ」

「──あとで!」


 氷の滑り台には皐月の魔力がしっかりと通っていて、その上を魔力で繋がった特製の大きなハスの花がモノレールのように安定した滑りを見せる。1人乗りのそのコースターには好奇心旺盛な栗鼠人の子どもたちが列をなして順番に乗っていく。


「ああっ、危ないっ!」


 今滑り出した花から1人の子どもが飛び出して空中に投げ出されたのを見てエルマーナが息を呑む。


「あー、あれが何故か大丈夫なんだよ」


 ベイルにとってはエルマーナが訪れる前に既に何回もみている光景であり、事故ではない。


 飛び出した子どもはベルトでハスの花に繋がれており、それに合わせてハスの花がレールを外れて今度は逆さまになってパラシュートよろしくゆっくりと降下し始めた。


「もう、わざと落ちるとかスリル求めすぎじゃない?」

「若いうちから楽しみな人材」

「魔族なんてそんなもんよ。ほら次待ってるよママ」


 そんなアグレッシブなアクティビティの係員みたいな真似をアイシャがしているのは、自分が試しに遊んでいたところを栗鼠人の子どもたちに見つかり、せがまれて仕方なくではあるのだが、結果として栗鼠人たちの信頼を得る事になっている。


「──アイシャが関わると信じらんない事ばかりね」

「花の精霊がついてからはなお、だな」


 大人たちはそんな遊びに明け暮れる子どもたちをよそに、これからを話し合っている。その会場は屋内だった集会所から外に移り広場に集まれるだけの人数を集めて行われていて、エルマーナとベイルも急ぎそちらへと移動していった。




「ギラヘリーの東側に広がる森が実のところ手付かずらしくてな。そこに住む事で落ち着いたらしい」


 一晩をギラヘリーで過ごしたアイシャたちは話をシャハルのギルドに持ち帰る必要があるのと、あとは遠征中の魔術士ギルドとギラヘリーの街の人たちで対処するとのことで、お役御免となり今は帰りの馬車の中である。


「散々に被害を被った街の修復には栗鼠人族が総出で通いながら進めていくそうだ。数はいるのだから襲撃前よりも復興完了までの期間はむしろ短くなったのかも知れんな」


 ゴブリンたちの襲撃の折には物も人も被害が大きく、人手も足りないことから復興が遅々として進まなかったが、栗鼠人族という人手を得たことで復興の目処が立ちそうだとベイルは計算している。


 “とうふ”と“あんこ”はギラヘリーに引き渡してあり、今はギラヘリーの御者が操る幌馬車である。その中には荷物はなく、ベイルとアイシャにルミ、マイムとリコも乗っているのだが。


「お昼寝士が2人に増えたってか?」


 さっきから語るベイルの話を聞いていたのはリコだけでルミも含めアイシャとマイムは乗ってからすぐに横になりリコの膝を左右から占領している。


「ずっと子どもたちを見てくれてたみたいですから」


 リコはそんな2人の頭を撫でて、感謝している。この友だちは紛れもなくリコのピンチに駆けつけてチカラになってくれたのだから。それはなにも2人に限らずチーム“ララバイ”の誰もがそうなのだろう。


「せっかくギラヘリーに帰れたのにリコは良かったのか?」

「わたくしは、その──聖堂教育の終わるまではお世話になりたいなって」

「まあ、あと1年もねえわけだしな」


 リコの適性は戦闘職でも生産職でもなく父親譲りの“統治者”と呼ばれる物で、なにも偉いわけではなく団体や施設、街、あるいは国なんかを運営する側にとって必要とされる適性であり、聖堂教育が終われば自動的にリコパパの下で働くことになる。


「ええ、それまで──それまでにわたくしも」


 アイシャの髪を撫でてリコはコソッと耳打ちする。


「わたくしも、アイシャちゃんとあんなことしたいなって」


 そんなことを言われたアイシャは面倒な会話に寝たふりをかましていたのに顔をどんどんと赤くする。


 寝返りをうってベイルに背を向けたアイシャの頭を撫でるリコの手が頬を撫でて、指先でアイシャの唇をつついて遊ぶ。リコはあの話し合いの最中の出来事にちゃーんと気づいていた。


 アイシャは照れ隠しにその指に口づけして寝たふりを続けた。



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