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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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エピソード0 扉を開く引きこもり

 それは喫茶“ララバイ”の打ち上げが行われていた酒場でのこと。


 覚醒したエルフのショブージとクレールがアイシャの使用済みベッドを購入する権利を賭けた闘いが謎の展開を迎えていよいよ勝敗が決しようという頃合い。酒場は屹立するユグドラシルにさまざまな反応を見せて悲鳴とも叫びともつかない声があがっている。


 だが少なくともこの場に決闘などどうでもよくアイシャたちの絡みのシーンばかりをこれでもかと見つめる人物がひとりいた。それはだれにも認識出来ない人物で、熱い想いのこもった視線はやがて奇跡を呼び起こす。


「あれ? ママ。あれってママのストレージじゃあ?」

「え? あれ──ほんとだ。なんで勝手に」


 地面にポッカリと開いた穴はアイシャがいつも収納するのに使うストレージのそれだ。死闘の果てに勝利の雄叫びをあげて震えるショブージのすぐそばの足元にある。


 ガッ。


「え? なに──」


 ガッ。


 ストレージの穴のふちに掛かる2つの手指。


 ショブージの股間やベッドの上の白い半固体まみれの少女たちに釘付けのギャラリーはその出来事に気づいていない。


 グウウッとせりだす肘がふたつ。そうなると出てくるのは上半身だ。頭から穴のふちに乗り出して肘を伸ばせば腰まで出てきてついに脚もでてくる。


 見えた水色の長い髪を持つシルエットに、アイシャもルミも恐怖を覚えはしなかった。


 ショブージの足元から立ち上がったその人物はショブージの下半身を一瞥するとたちまちのうちに凍らせて蹴り飛ばしてしまった。かすかな赤色を混ぜた光を散らしながら飛び去る氷柱。スッキリした股間を、押さえて崩れ落ちるショブージ。呆気に取られるギャラリー。


 氷を象徴するかのような白く青い模様の着物を着たその人物に


「なんて美しいのかしら」


 ルミはそう呟いた。みんなに聞こえるように、あえて大きな声で呟いてみせた。むしろ誇らしげに称えた花の精霊とその人物の顔は同じ造形をしていて知るものは「精霊さん?」や「ルミちゃん?」とざわざわしだす。


 大きなルミは一歩を踏み出す。その動きに一瞬倒れ込みそうに軸が揺らいでどうにかバランスを保ちそのままもう一歩前に進む。手は肩ほどに上げてそれで倒れまいとしているようで、まるで初めて立ち上がったみたいな印象を受ける。


 洞窟の奥で出会ったルミそのままのゾンビは何かを求めてアイシャたちに近寄る。ルミの魂は転生してアイシャの眷属“花の精霊”としてここにいるのに、だ。その表情には渇望ともいえる執念さえ見える。


 鼻息荒く、ついには口も開けて顔を赤面させてアイシャの前にまでたどり着いたその死体のはずの彼女は、まるで長年想い続けた人に出会えたかのような、そんな喜びと達成感に満ちた表情でアイシャの手を取った。




「──という事が出来ちゃう技能ですよ」


 椅子に腰掛ける皐月の前に投影されていた映像は暗転してスタッフロールが流れている。


「私にそんな事が出来るのですか?」

「あなたもアイシャなのですから。ツリーがあって技能が存在しているなら、スキルポイントで習得できますよ」


 皐月の質問にシルエットだけの人物はこともなげに答える。


「──そんな事が許されるのでしょうか」


 しばらく口を開けて妄想していた皐月は冷静に寂しそうにそうこぼす。


「彼は怒りますか? あなたから見た彼が」


 影は皐月の世界、それも外に干渉させていないアイシャの中で完結している世界に「こんにちわー」などと言って普通に入ってきた。


「たぶん、怒らないでしょうね」


 この影はアイシャに語りかけ働きかけもしたが、ダイレクトに皐月に対してアクションをとったのは初めてである。アイシャが小さな頃に出会ってからずっと見守ってくれている存在に危機感は抱かない。


「あとは皐月さんが望むか望まないか、ですよ」

「私が──」


 投影された映像は視覚的に第三者視点であるにも関わらず、見ていた皐月は実体験のように感じている。


「私が望んでいるから」


 喉から手が出そうなほどに欲している。あのベッドの中に参加したい。女の子たちと戯れたい。


「彼は、かつて彼の見た夢にはちゃんとあなたもいたのですよ」


 遠い昔に見た夢。アイシャの隣に立つ皐月。


「だけどその夢のエンディングにあなたは居なかった。一緒に現れたのに」


 何故だろうね、と影は問いかける。


「私が、決められないから」


 彼は夢の中でさえ皐月を求めているのに、皐月がそれを望んでいるのか分からないから登場させたくても一瞬だけの友情出演で終わっていた。


「彼に君たちを分ける提案をしたときに、引きこもりたいならそれでもいいと言っていたけど、命を捨ててまで助けたんだ。その君の心を尊重しないはずがないさ」

「それは──覚えている」


 皐月はその時にまた深く恋に落ちた。優しい彼の気持ちに。そのことも覚えている。




「習得にはそれなりのスキルポイントかお金が必要になる。喫茶のはだいぶ使っちゃったみたいだけど、あの子の事だからポイントもお金もそのうちガバッと手に入れそうだよね。その時に使っていいか聞くといい」

「絶対に断らないのが分かってて聞くのも、嫌な女よね」


 影はフッと笑い「彼も今は女の子だからいいだろ?」と背中を押す。


「ああ、あと前回に僕はくす玉を持って現れたんだけど、今回はいいかなって。だからこれを預けておく。その時が来たら使うといい」

「これは?」


 それは“祝300話! みんなありがとう!”と文字が刻印された水晶である。


「魔力に反応して大きな花を咲かせるアイテムだよ。氷のように映るそれは質量もなくそこに固定される魔術の彫刻。僕らにもよく見えるところに使ってくれると嬉しい」




「それはそうとアイシャちゃんはお金の使い道で迷ってるみたいだから、とりあえずはギルドカードに入れたままにしとけばって言いたかったの」

「あー……そんなことのためにわざわざ?」

「そんな事だからね。そんな事に頭を悩ませて先に進めないなんて勿体無いもの」


 ふふっと笑う皐月に「それもそうだね」と答えたアイシャはなんだかスッキリした感じがする。


 それはアイシャの中の片割れがようやく決心がついたからだろうか。“ザ・ドリーマー”を解除したひとりの世界で皐月はその時に想いを馳せてニヤニヤしてしまう。


「けれど水晶のおかげでもう少し待つことになるのは──我慢できるかなあ」


 我慢しすぎた結果、抑えきれない衝動の餌食となるのはマイムであった。



201話と繋がっているお話です。

影の人は亜神のひとりですが、序盤以来で久々にまともに出てきました(たぶん)

引きこもり云々は33話を。打ち上げは199話、夢に『彼女』として出てきたのが201話ですね。

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