受け、渡す
「スプラッシュウォール」
マイムが持つ技能のひとつを使うと魔道具とアイシャたちを中心にして周囲を湧き上がる水の壁が包み、アイシャたちだけの空間を作り出して天井までをすっぽり覆ってしまう。
「これは……」
まるでアイシャの“プラネタリウム”のように空間を二分している。
「かなり強力な壁よね。外から侵入出来ない代わりに中からも出れないくらいに」
ルミは水の壁から外を見ようとして全く見えず、手を近づければ指先を切ってしまうその壁を素直に称賛した。
「マイムちゃんそんな技能を持ってたんだ」
「最近とったの。魔術士ツリーの技能は全部とった。来年は上位職業の魔導士になる」
きっとアイシャに報告したかったのだろう。その頑張りをこうして目の前で示すことができてマイムは満足げな顔である。
「だめっ、離さないで」
「んぐっ⁉︎」
アイシャもその壁を見たくて身体を離そうとしたのだがマイムがそれを許さない。この2人きりの空間でまたもマイムは暴走したのか。
「マイムちゃん、いまはそれどころじゃあ──」
「それどころなんだよ、ママ」
「はえっ?」
意外なところからマイムを支持する言葉が聞こえてアイシャは素っ頓狂な声をあげる。
「いまマイムちゃんはママとの接触でママの魔力を借りているのよ。マイムちゃんは“マナドレイン”も習得したみたいね」
「うん。頑張った」
「マナドレイン?」
アイシャの視界にはもはやマイムの素肌しかない。
「ママと接触してることでママの魔力と繋がりマイムちゃんがママの魔力を使うことが出来るのよ。とは言ってもかなり相性が良くないとここまで効率的に出来ないはずだけど」
「アイシャちゃんとあたしの相性は何度も確かめてる」
今度はマイムがアイシャの耳を咥えてその接触を濃厚なものにしていく。
「んんっ──」
「アイシャちゃんは耳が弱い」
「ほうほう」
「ま、マイムちゃんはここでしょうっ」
「んっ……あっ……」
お返しとばかりにアイシャははだけたマイムのその頭頂部を口に含んで転がす。
「んんっ……アイシャちゃんの魔力ってどれだけあるの」
マイムはこうしている間も水の壁を作り続けているが、自分で行使したときよりもずっと分厚く、ずっと大きなそのサイズに悶えながらも疑問を投げかけずにはいられない。
「ひははひ(知らない)」
アイシャの口は今は喋るよりも忙しい状態だ。甘噛みがマイムの敏感なところを刺激する。
「ママの魔力ならこれを維持するだけであれば丸1週間続けても尽きないはずよ。どころか私が回復を促進してあげるからもう1年だっていけるかも」
ルミはそう言って安全の確保されたここでお茶を淹れ始めた。
「何それすごい。アイシャちゃん本当に魔術士に……んんっ!」
「私はお昼寝士だからっ。そんなバリバリの戦闘職なんてごめんだよ」
アイシャはマイムのその白い肌に赤い花弁をひとつつけて、やはりぺろりする。
「けど接触ってどこまで必要なの?」
「伝達率の話? それならお互いに密着した上で水にでも濡れてるのが良いんじゃない?」
雪人族だったルミは雪人族同士で接触することでその低い体温を安定させたり、さらに濃厚に交わることで子を成す種族であった。だからこそそれがマナドレインにも通じていることを知っているし、マイムがしたかったことを察知する事が出来た。
「なら極端な話、その水で濡れて密着してればいいのね」
さすがに外から見えないとはいえ、これ以上はまずいと冷静になったアイシャは現実的に効率的な手法を模索する。
だけど、そんなのは溜まりに溜まったこの子が納得するはずもないことにアイシャは……うすうす勘づいていた。