激戦の予感
ギラヘリーの街の大きな木製の門は閉まっていたのを無理矢理に開けたのが分かるほどに壊されていて、そこをベイルたちは騎乗したままに突っ込む。
「栗鼠人族っ! よくもわたくしの故郷をっ!」
「リコちゃん、落ち着いて。まずはお父さんのところでしょ」
「くうっ──はいっ、このまま行きましょうっ」
街中はどこもかしこも暴れ回る栗鼠人族による被害とあちこちで小競り合いのような戦いが行われている。魔族の中でも弱小のこの種族は魔力による攻撃よりは素早さに特化しており、住人たちでもどうにか凌いではいる。だがそれも数の差というものがいずれ人間族を制圧してしまうのは明らかだ。
「嬢ちゃんっ! 俺はここでクレールを待ってどうにか栗鼠人族に対抗してみるっ。その間に連れて行けっ」
「ベイルさんっ──無理しないでね」
「ああ、死なないようには頑張るさ」
自慢の筋肉を失くした半端者は主婦よりも弱い存在である。辛うじて経験がカバーしたとしてもそう長くは保たないだろう。
「あたしも残る」
そんなベイルとアイシャの心配に敏感に気づいたマイムがここで戦闘に加わると言って馬から飛び降りて──転がる。
「おおっとっと。大丈夫か」
「うん、生きてる」
「馬から飛び降りただけで死ぬかも知れない助っ人か」
魔力の高さこそ魔術士適性のために高いが、その反面体力では今のベイル並かも知れないマイムにこの混戦は厳しい。
「マイムちゃんっ! すぐに戻るからねっ!」
離れいくアイシャとリコに手を振りマイムは杖を構える。
「──やば。魔力そんなにないかも」
「だあっ⁉︎ なんで残った⁉︎」
連日の栗鼠人族対応でろくな休息の取れていないマイムは魔力も回復しないままにここに来ている。
「だって、アイシャちゃんが心配するから」
ベイルの安否を。だからマイムはアイシャが心配しないためにも残った。
「──ったく。心配の種が増えただけじゃねえか」
ベイルは普段とは違い大きなナタを手にして構える。いつもの戦斧を振るう力がないためにそれでも戦える武器を選んできた。
「そう、増えたから。きっとすぐに来てくれるの──」
ピンチなのに嬉しそうなマイムは杖を構えて水の弾丸を射出した。
「お父様っ!」
「リコっ⁉︎ 何故ここに!」
街長であるリコの父親は割とすぐに見つかった。何人かの側近を従えて自ら馬を駆り、その手の槍で栗鼠人族を薙ぎ払いながら駆け回っていたからだ。
「街がまた窮地に陥っているとなれば、わたくしだけのうのうと過ごすことなど!」
抱きつき涙するリコを父親は責めることなど出来ない。力強く抱きしめて娘の無事を確かめている。
「それでも、1人でなどと──」
「え? いえ、お父様。わたくしはギルドの人とアイシャちゃんと……あれ?」
リコが振り返ったそこには“とうふ”が一頭で静かに佇んでいるだけだった。
街の中心にある時計塔。そのてっぺんには大きな鐘があり、ここからなら街の奥までが見渡せる、そんなロケーション。
「ねえ、ママ。ここから何をするつもりなの?」
ルミとてこの状況を打破する策はない。戦場を一望できるこんなところまで登ってきたアイシャにならそれがあるのだろうかと訊ねる。
「──道が分からない時は高いところから見るのが一番じゃない?」
カッコよく街を見下ろしていたアイシャは、マイムのところに戻りたいけど馬に任せっぱなしで戻り方が分からなくなっただけだったらしい。




