抵抗を減らす事を追求したフォルム
夏のプールは今その本来のスペースとは別に25m、4レーンの四角いスペースを追加してあり、そこでは初めての水泳講習なるものが行われている。そしてアイシャとマケリの練習を目撃した人たちの口コミで参加者はそれなりにいるのだが。
「男女別なんかよ」
「くっそぉ。アイシャちゃんとキス出来るってのは嘘だったのかあっ」
土魔術を駆使して作られたプールを縦断するつい立てにより下心丸出しの男子ズは嘆き悲しみ、さらにはここでベイルと初キッスを済ませることになる。
「そんな風に思って来るなんて最低よね」
「でもアイシャちゃんもそんな風に楽しんだじゃない? それも私で」
マケリは何人かに指導してその結果として今回の講習第一回目が開催されるのだが、その様子が間違ってないかをアイシャが確認する。
「まあ、それは……その……」
「ふふ。それにしても幼児体形とは思ってたけどまさか毛も──」
「それはもういいから早く始めよ? ね?」
「うん? んー、じゃあそうしようか」
目の前で2人の会話にワクワクが隠せない生徒たちがいるためにアイシャはいつも以上に焦り必死になった。
「なかなかどうして……いいじゃないのさ」
「ふふん、でしょー?」
アイシャが想定していたスイミングスクールにかなり近い仕上がりの講習は、男コースではつい立ての向こうから吐くような声が聞こえたり何かに目覚めそうな声も聞こえてきたりだが、女コースではすでに目覚めている者も含めて終始楽しくそして充実した内容の講習が行われていて、全く泳げない人というのは講習の終わりには誰もいない。
「この調子ならスポーツとしても流行りそうかもね」
「んー? スポーツなの?」
「そうだよ。まあそんな必要もないのは分かってるけど──」
チャプンっと軽く飛び込んだアイシャはみんなの見ている前でいつまでも浮いてこない。あわやと一同が腰を浮かせた辺りで対岸に顔を出して物凄い勢いのクロールでひと息に泳ぎきってみせたアイシャ。
「端から端まで泳げるようになったらタイムを競ったりしてね」
「な、なるほど。アイシャちゃんは走ったり泳いだりしてる姿を見るととても──」
オールEには見えない。けどステータスの話をおおっぴらにする訳にはいかず飲み込むマケリ。
「とても──?」
アイシャは小首を傾げてほどけた髪を束ねる。そんな仕草をするこのちんちくりんの速さの謎は、と見つめるマケリ。やがて行き着く解答は
「軽さかな? 軽さなのかな? 水中ではこの辺にかかる抵抗が気になったけどアイシャちゃんはそんなのも無さそうだもんね。ここか、ここが抵抗を最小限にしてしまっているのか! ええい、膨らめっ! 揉めば膨らむだろうっ!」
アイシャの愛らしさにあてられてマケリがおかしくなってしまった。つい立てで囲まれたここは女子ばかりとはいえもはや暴走したマケリによってアイシャは半裸である。
周りの女子たちも楽しそうにきゃーきゃーと騒ぎ、壁の向こうの男子連中を悶々とさせて水泳講習はそのスタートを無事に切ることができた。