手土産は揺れる小山
「これ、いいわねっ!」
帰りの馬車の中でアイシャたちを前にして豪快に寝っ転がり世紀の大発見とばかりにはしゃいでいるのはマケリである。
「ああ……私のおっぱいが」
それは別にアイシャのそれではなく、巨大ウミウシの魔物の体液から作られた偽乳の方である。質問を諦めたマケリはそれでも現物を没収して返さないのだが何気なく馬車の中で尻に敷けば振動が和らいだことから試しにと横になって頭の下に敷いてみたのが大当たりだったようだ。
「返して欲しくばこれの出どころを言いなさい」
キリっとアイシャに交換条件を突きつけるマケリはアイシャの憧れたおっぱいに頭を埋めている。
「う、うーん……クラゲ?」
「ええっ⁉︎ 気持ち悪いっ!」
慌てて飛び起きるマケリだが、やはりどう見てもあの魔物の中身にしか見えず、そもそもが中身であると想定した上でくつろいでるのだからと思い直してまた横になる。
「ねえ、アイシャちゃん。これはあの謎の魔物の生態を解き明かす可能性なのよ。ベイルが何であんなことになったのか。だから本当のことを教えて」
「寝っ転がっておっぱいに挟まれながら言われても……はあ、まあその通りだよ」
それでもベイルの話を出されれば嘘をつき通そうとは思わない。アイシャも心配なのだ。
「やっぱりね……これを持ち帰れば何か掴めるかも知れないわ」
「私のお尻をあんまり見ないで」
おっぱいを頭の下にしたマケリの手にはアイシャのお尻の形を盛り上げたゲルが握られている。
「んふふ、小さくてかわいい形してるよね」
外側ではなく内側を指でなぞるマケリ。そこにはくっきりとアイシャの形が刻まれている。そんな事をするから黙っていたサヤが参戦して一悶着しながら一行は無事にシャハルの街へと帰り着いた。
「で、本当にいいの? 全部もらって」
「うん、その代わりベイルさんの事ちゃんと解明してよね」
「分かったわ。きっと──約束するわ」
男子組の馬車のどれかに乗っているベイルには聞かれていない会話ではあるが、後でちゃんとマケリから伝わって「嬢ちゃんには借りがたくさん出来ちまったな」と涙していたそうだ。
「今回の課外授業はこれでお終いだ。次は秋頃になるはずだが、それまでにきっちり鍛えておくように」
「──体術を習いたい者がいれば訪れるがいい。暇があれば仕込んでやる」
「だそうよ。ドロフォノスはその辺ほんとーに強いから。今回のことで習得を考えてるならくるといいわよ」
アイシャたちも気づいていなかったがドロフォノスは本当に着替えて来て朝にはいつもの黒装束姿で遠くから監視していた。ハクビシン着ぐるみパジャマは自宅にちゃんと保管してある。
「体術ねぇ。私も習おうかな」
「じゃあ私もサヤと一緒に」
「カチュワもなのですよっ」
強くなりたい3人で意気投合し、アイシャの反応を見る。
「私はお昼寝道を極めるので忙しいから」
「なにお昼寝道って」
ここのところアクティブすぎるアイシャはそれでも変わらず戦闘から離れたくて次はどうやって回避を試みるかしか考えていなかった。