残るはあと2人
「死なねえ保証が欲しいところだが……これしかねえってんなら、俺の命は嬢ちゃんに預けるぜ」
「う、うん」
「……」
アイシャたちが流れ着いた海底洞窟の入り口は中から見ると一度潜ってから海中部分を抜けて海面に出る形になる。そこはほとんど光の差さない通路でハーフパンツだけのベイルは出る頃には身体中傷だらけになること請け合いだ。
まずアイシャが水の中に入る。立ち泳ぎをしてみせるアイシャにミドリもベイルも「ほう……」と感心して、やつれたベイルが恐る恐る水に入り胸の辺りまで来たところで一瞬、それまでついていた足を滑らせて溺れそうになる。
「ぶはっ、こいつはマジで……」
「……」
「まあ、怖いかもだけど目をつぶっている間に海上まで行くのは約束するよ。だからミドリちゃんも怖がらず……ミドリちゃん?」
ベイルの姿を見てミドリは溺れた辛さを思い出したのか小刻みに震えている。
「だ、大丈夫だよ? ミドリちゃん」
「わた、私っ──」
それだけを言いかけてシュパっと走り去るミドリ。遠く離れた所から「私なら登れそうな気がするのでお構いなくっ」と洞窟の壁に反響してアイシャたちに届いた。
「な、なあ嬢ちゃん。俺ももしかしたらよ──」
「それは絶対無理だから諦めて──お覚悟っ!」
すうーっと息を吸ったアイシャはベイルのタイミングなどお構いなしに潜水して海底トンネルを泳いでいく。明かりはノームたちが一生懸命に壁に張り付いて走り前を照らしてくれている。
掴んだモヒカンの本体があちこちにぶつかる感触が伝わってくるがそんなのは関係ないとばかりに泳いで、やがてアイシャたちは海面へと浮上する事が出来た。
「こんなところに……割と距離あるなあ」
行きは無我夢中だったが帰りは遠くに見える浜辺と群がる子どもたちの所までの距離を思うと若干億劫な気持ちになるが。
「まあ、あとはゆっくりでも進むだけだよね」
アイシャはストレージから取り出したジンベエザメボート(58話、72話)を取り出して溺れたベイルをその上に横たえて静かにバタ足で押していくことにした。
「とうっちゃーくっ!」
砂浜にぽっかり開いた穴は、それでも波打ち際からは少し離れていて海水が流れ込むようなこともなくそこにある。地表こそ砂ではあるものの、すぐ下が硬い地盤となっているからだろう。そこから元気よく飛び出したのはタロウくんに乗った今回の元凶であるルミだが、ここにいる誰も“今のところ”そうであるとは知らない。
「あっ! ルミちゃんっ。大丈夫だったの⁉︎」
「まあ、なんとか生きてたよ。そうそう、ママもこの下にいたからじきに帰ってくるよ」
この場で誰よりもその言葉を待っていたサヤはルミの言葉を聞くと、誰もが止める間もない速さでルミの這い出てきた穴へと飛び込む。
「あの、バカっ!」
マケリとフレッチャが慌てて追いかけるが間に合うはずもない。また1人遭難かと思われた矢先に穴から黒い影が飛び出し、穴の外にサヤを落としたかと思うとそのまま走り去ってしまった。
「なに、今の。あれは──」
「ハクビシンね」
「うん、おっきなハクビシンだった」
何かの魔物かと言いかけたフレッチャにマケリがハクビシンだと言ってサヤも目をぱちくりさせながら証言した。
「じゃあルミちゃん、アイシャちゃんは本当に帰ってくるのね?」
もう落ちるなとマケリとフレッチャに両脇を抱えられたサヤが問いかける。
「うん。もうすぐ──あっ、あれっ!」
ルミが指差してみんながそちらを眺める。その先ではゆらゆらと波に揺られて波打ち際に漂着する物体があった。