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シュッとしたのはいいけど

「こういうのは古来から決まった様式美というのがあるのよ」


 決して自分ではマウストゥーマウスをしないアイシャの語りに、同じく青いモヒカンとのキスを拒否するミドリは傾注する。


「このたっぷりと水っぽい何かを飲み込んで膨らんだお腹。まるでスイカのように実ったお腹はいかにも叩いてくれって言ってるようじゃない?」


 そんな気はしないがとりあえず頷くミドリ。もうマウストゥーマウスを避けられるなら何でもいい。


「見てよここ、これはきっと古代文明からのメッセージなのよ」


 アイシャが指でごちょごちょといじったところには“Push Here”などと浮かび上がっているが、どう見てもアイシャが今しがた指で青い液体のついたお腹に書いたようにしか見えない。


「これはっ! 確かにナニカからのメッセージねっ!」


 ルミもそれに乗っかるのは楽しそうだからに他ならない。


「そ、そう言われるとそうですねっ!」


 ミドリはこの後の展開次第ではマウストゥーマウスをせずに済むのでアイシャの説を支持する。


「というわけで──」


 アイシャの振り上げた手にミドリとルミの視線が注がれる。


「えいっ!」


 ペターンッといい音を立ててアイシャがベイルの腹を叩けば口から噴き上がる青の噴水。


「おお、ママ私も私もー」

「ふふっ、仕方ない子ねえ」

「えいっ!」


 ルミの両手の叩きつけがまたも噴水を上げる。


「あ、あの私も……」

「ミドリちゃんもやっちゃってーっ!」

「えいっ!」


 ミドリの案外気を使わない叩きつけはさらに高い噴水を上げる。


「おおっ? 新記録じゃない?」

「むむ、負けてらんないわねっ!」

「越えられるものなら越えてみなさいっ!」


 ペターンッ! ペターンッ! ペターンッ! …………




「──で、俺の腹で太鼓をしていたわけだ」

「「「ごめんなさい」」」


 無事蘇ったモヒカンことベイルは3人にいくらかのクレームをつけたのち、アイシャの出してくれた真水の樽を使って身体の青を流した。


 その最中も、まだ身体の感覚が怪しいと言うベイルを補助したのはアイシャとミドリ。幸いドロフォノスだと気づかれることもなく、無難なところを手伝っていたのだが、ベイルの振る舞いから、視力と聴力がまだはっきりしていない印象を受けるが他と違い丸洗いするわけにもいかない。


「まあ、助けてくれてありがとうよ。絶対に死んだと思ったがまさか生きているとは……」


 ベイルはウミウシに取り込まれてから呼吸こそ出来ていたものの、大量にその体液を取り込んでしまい全身が動かずひたすらに熱を感じていただけだと言う。やがて意識も朦朧として気付けばイタズラされていた、と。


「まだ身体中が熱い。変なものを口にしたんだから病気にでもなってなきゃいいが」


 水で流したついでに冷やされてもいるはずなのだが、ベイルは熱さを身体に残しているそうだ。


 鼻からも口からも耳からも取り込んだようで、アイシャたちの蘇生法の噴水であらかた吐き出せたのかも知れないが、その結果として少し異常事態と分かることが起きている。


「……」


 そしてそんなベイルの姿を3人ともが何も言えずに言い出せずにいる。


「なんでぇ、やっぱり変なとこがあるか? あるなら言ってくれると助かるんだが」


 もしかしたら自分の見えてないところで致命的な異変でもあるのかとブルってしまうベイル。


「あのさ、世紀末モヒカン」

「誰がだ」

「う、うん。ベイルさん……気を落とさず聞いてね?」


 珍しくアイシャがベイルを気にかけて話し出す。そんな姿を見てベイルはいっそう恐ろしくなる。


「大丈夫だっ! あんな魔物の中でたらふく体液を飲んだんだ、覚悟は出来ている。何でもきやがれっ!」


 あぐらを組んだベイルは目を閉じて空を仰ぎ覚悟の表情で叫ぶ。




「いや、その……ベイルさん縮んだよね、絶対」

「あ?」

「縮んだってか萎んだってか」

「何がだよ。まさか、俺の息子が──」

「そんなとこは比較元も知らない。そうじゃなくって」


 息子でなければ何が縮むというのか。もしかしてトレードマークのモヒカンのことだろうか。


「は、早くいいやがれっ!」

「ああーっ、もうっ。筋肉っ! ベイルさんの筋肉が萎んだって話!」

「ああ⁉︎ 筋肉っ……だと?」


 言われてベイルは身体中をペタペタと触って確かめる。こんなおっさんがセルフペッティングをしているのを見て喜ぶやつもいない。


「な、なんてこった……」


 半端者の唯一の武器である肉体が失われたベイルは茫然自失とする他なかった。


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