蒼きモヒカンは忌避の対象
「まあ、どうにかなるかも。幸い生きているみたいだし?」
「ずっと溺れてるってどう言うことよぉ」
たまにピクピク動くベイルはまだ口から気泡を出して溺れている。
「確かに……ちょっと気になる、かな。ん? あれはなに?」
ちょっとしか気にならないアイシャが指で示したのは黄色い突起物の先端が千切れたような箇所。
「あれが触手のあったところよ。たろ……レッサーアースドラゴンが引きちぎったやつね」
「ふぅ……ん」
ルミの説明を聞いてアイシャはウミウシを登り始める。
「なるほど、これが。じゃあやってみるかな」
アイシャが触手のあった所でストレージから取り出したのは一本の包丁。
「アイシャちゃん、刃物も全然通らなかったのに包丁でなんて」
「こういうのはね、全体と違うところは案外ともろいもの、なのよねっ!」
ズブっと触手の根元に包丁が突き立ったのを確認してアイシャは一気に引き裂くように包丁を滑らせる。
「なんとか開いたけど、これに入って助けに行くのか」
体表に穴が開いたにも関わらず溢れてはこない中身は弾力性の高い液状のゲル。
「もうここでやめていい? ほら、もしかしたらその内うんこみたいに出てくるかも……」
手を入れれば割とすんなりと入りはしたものの何だかきもくってアイシャは放置を提案する。
「それなら何もママが入っていかなくても外から押してあげたら飛び出すんじゃない?」
「それよっ! ナイスアイデアよ!」
「アイシャちゃん……これは」
まさか空中にまでストレージの大穴を開けることが出来るとは思ってなかったミドリ。
アイシャが触手があった箇所を包丁で広げた穴の目の前を塞ぐように地面に対して垂直に開いた大穴。
「謎の液体だしこの辺で何が起こるか分からないから、飛び出したところをそのまま放り込むわ。それにベイルさんが入る事になるかならないかも重要だし」
「どういうこと?」
「私のアイテムボックスには、生きているモノは基本的に入らないの。つまり──ベイルさんが生きてれば弾かれて、そうでなかったらあの世行きってこと」
ミドリが息を飲んだのはベイルの生死に対してか、或いは死体なら入ってしまうことを既に検証しているアイシャになのか。
「じゃあいっくよおっ!」
アイシャはウミウシを駆け登って宙へと高く舞う。
「フライングアイシャボディプレエエスッ!」
ボヨンっとアイシャの軽い身体はウミウシの上で跳ねただけである。
「タロウくんインパクトっ」
そのアイシャの背にルミが乗り指示した今は小さい、それでも強力なタロウくんの叩きつけが炸裂してアイシャは派手にめり込む。
「それっ、私にぶつける必要……ある?」
「──てへっ?」
何となく、で叩きつけられたものの、レッサーアースドラゴン状態の衝撃貫通みたいな生死に関わるものではなく、アイシャの身体はウミウシを大きく凹ませて、結果として空いた穴からその体液を派手にぶちまけた。
「ちっ、生きていたとは」
ウミウシの中身は一滴残らずストレージの中に入り残骸もゴミのように放り込まれて残ったのは腹がパンパンに膨らんだ青いモヒカンだけである。
「ゴボゴボ」
「まだ溺れてるっ! ベイルさんっ、起きてくださいっ!」
「ゴボゴボ……」
ミドリは必死で肩を叩いて揺するが口いっぱいに青い液体を含んだベイルはなおも溺れ続けている。
「陸にいて溺れるとかモヒカンもなかなか器用ね」
「そんなとこ感心してないで、何かいい方法とかないっ⁉︎」
「んー、こういう時はやっぱり人工呼吸なんじゃないかな?」
「なにそれ。えっ? なになに──」
アイシャに耳打ちされてミドリは顔を赤くする。
「あ、あのアイシャちゃんで練習してからでいいかな?」
「なんでよ。ズバッと行っちゃいなよ。ガバッとブチューっと」
ミドリは横たわるベイルの青さと口の中の青を見て
「やっぱり諦めようっ。ベイルさんはもう海に生きるのよっ」
ミドリでさえも気持ち悪くて手を合わせて見捨てた。