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欲しかった実績、欲しくなかった未来

「俺の休みの日に申請があったか。まあそれでも確認はしないといけねえ」


 アイシャたちの住む街にはフリーストリートと呼ばれ許可さえ貰えば誰でも出店できる、いわゆるフリマのような場所がある。もちろんアイシャも夏のプールやらでのお手軽な屋台もきちんと申請している。


「ここ、か──」


 そんなフリーストリートの空きスペースに今日から2日だけの営業許可が降りて商売をする者がいる。


「誰もいねえのか?」


 武器屋の許可を申請した店を職人ギルドの担当は二つ返事で許可したらしいがベイルは気がかりな事があって──むしろ気がかりな事しかなくて訪れた。


「ナイフはそっち、トゲ付き鉄球はあっち、汚物を消毒するアレは売り切れだよ」

「なんだそのチョイスは。全く……」


 ベイルがよく知るその声の主は今回は無愛想な堅物店主を演じる気らしい。


「お、このナイフ……なかなか良さげじゃあねえか。しかもどれもこんな安値で──」


 ベイルは案内されたナイフを手にしてその質の良さに悪くねえと思い他にも何かないかと物色する。


「お客さんには──コイツなんか良いんじゃあないかね?」


 そんなベイルを観察していた店主がどこからともなく取り出したのは大柄なベイルをしてデカいと思わせる戦斧である。中心にドクロを象ったロックなビジュアルをベイルも気にいった。


「まいど」


 店を出て両手で持つにも確かな重量を感じさせる斧を眺めてうっとりしたところで、視察に来たベイルは自分が普通に買い物して出てきただけである事に気づいた。


「まさか当たり前みてえに買い物しちまうとは……」


 何気にアイシャが現れると普段は起こらないような出来事に遭遇出来て楽しかったりするベイルは前回の探索行でお預けをくらい、今回の出店には密かに期待していた。それは本来であるならば正当な満足感を与えてくれたはずなのだが、ある意味で期待はずれでもあった。


 そんな調子で続けられる武器屋はパラパラと売上を伸ばしていく。本職の人たちは、武器を売ったお金(この世界ではスキルポイントもそれに相当する(6話))で生活をしてスキルの取得までしなければならないためにアイシャのような安値で売ることなど出来ないから、噂が広まれば勝手に売れていく。中には転売するものなども出る始末だ。




「だって、槍を持っていったら“実績というのは物じゃなくて販売の実績のこと”だからって門前払いされて──」


 たいそう繁盛した店主のアイシャは、職人ギルドのメンバーからのクレームにより出店を取り消されて販売したもの全てに対して返品返金対応をさせられた。


「明日の夕方までにってことだから、ちゃんと許可を貰って商売したのに……」


 えぐっ、えぐっと泣きまねをして「こんなのあんまりだぁ」と地面を叩くが、同情を買うにはあまりにもお粗末な演技でベイルの取り調べは続く。


「嬢ちゃん、まあ世の中には適正価格ってのがあってだな、それをあまりにも超えたり下回ると市場が混乱するんだな」


 肩に手を置きご愁傷様だな、とベイル。


「うっ、うっ……ベイルさんみたいな客がいるから?」

「うっ──それは……」

「『こいつあ安くていい買い物が出来たぜ! あんがとよっ!』だったっけ」


 ルミのモノマネもなかなか堂に入っている。


「まあ、特段ペナルティもない様に取り計らうつもりだ」

「はあ、あんがと」

「そこでだな、さっき他のと一緒に返品することになった斧だけどよ──」




「結局買い手は安いのがいいわけで」

「アイシャちゃんも甘いねえ」


 ベイルには言い値で売ってあげたがそれでも遊びで作った“ベイル専用世紀末スマッシャー”の性能から見ればはした金でしかない。ベイルはしばらくは家に飾って磨いて眺めてと堪能するつもりなのでその性能が見られるのはもう少し後になるが。


「アイシャちゃん」

「あ、サヤちゃん」

「もう終わりなの? 早いね」

「いやー、それがね──」


 またアイシャがお店をするからと様子を見に行く途中だったサヤとばったり出会い、アイシャはことの顛末を話して聞かせた。


「それは困ったサービス精神だね。お客さんは幸せだけど武器職人の人たちは生活出来なくなっちゃうもん」

「やっぱりそうなんだよね。はあ、課外授業の時に目をつけられなかったらいいけど」

「まあ、その時はその時で頑張るしかないね」


 この幼馴染はアイシャをダメとは言わなかった。サービス精神だと言う。優しき幼馴染に癒されてアイシャもお返しをしたいと思う。


「優しいね。そんな優しいサヤちゃんには、これを」


 そうでなくともプレゼントしたわけだが、お陰で渡しやすくなった。


「これは?」

「武器職人見習いアイシャからのプレゼント。サヤちゃんに使って欲しくて。普通のロングソードで悪いけど、ね」


 剣を受け取ったサヤは愛おしく胸に抱き


「そんな事ない。こんなに嬉しいプレゼントはないよ」


 微笑み感謝を述べて、手を繋いだ2人は家路へとついた。




「ねえ、私はなぜここにいるの」

「済まねえな、嬢ちゃん。ペナルティは免れたがあれだけ混乱させたんだ。向こうは受け入れるつもりはねえってよ」

「それはペナルティじゃないの?」

「もしも、の未来が実現出来なくなってもそれはペナルティじゃないそうだ。諦めろ」

「はあ……」


 課外授業の当日、ギルドの玄関を跨いだアイシャはサヤにがっちりとホールドされて冒険者ギルドへと連れ込まれてそのことを知らされた。つまり──


「今回は私たちと一緒だね!」


 チーム“ララバイ”(マイム、フェルパ不在)再びの出陣である。


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― 新着の感想 ―
[良い点] サヤさん、本当に中々愛しいですね〜
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