どうにか回避したい
「また、課外授業……」
「そんなに絶望感出さないで。今回は一緒にやれるよきっと」
またも貼り出された告知にアイシャは重いため息をつく。アイシャは戦いたい訳でもなくただ幼馴染と仲良しメンバーに乗せられる形で冒険者ギルドへの就職が第一志望になっているだけだ。
(それだけじゃない。また前回みたいに色々詮索された挙句に亜神がちょっかい出してきたら)
少なくとも冒険者ギルドへこのまま向かうのは大挙して押し寄せる面倒の波に自ら飛び込むようなものだ。
「おや?」
こういうお知らせはいつも幼馴染から知ることが多く、その情報の詳細についても自分でよく確認することのないアイシャ。けれど行きたくない一心が救いの文言を見つける。
「適性問わず※その場合は実績が必要」
告知の下の方に書かれた但し書きのひとつ。
「サヤちゃん、これってどういう事だと思う?」
「んー? ああ、行き先はどの部署でもいいよって事だよ。ほら戦いたくない戦闘職の人とかが商業ギルドに行ったりとか」
「私じゃんっ!」
「アイシャちゃんはそもそも戦闘職なのかどうか分からないけど……私と一緒には行ってくれないの?」
「サヤちゃん……」
アイシャは心を鬼にして断った。
「それで、ワシらのとこに来たってわけかい」
「うん。なんだか実績? てのが必要らしいから勉強したいなって」
そんなアイシャはいま聖堂教育施設のうちの工房棟武器防具組にやってきている。ここにはアイシャが色々と手を出していた折に来た事があり、カチュワの盾を作るのに大いに役立った。
「そんな付け焼き刃で実績ちゅうてもな。ちなみにスキルツリーは解放しとるんか?」
ギルドカードのシステムに依存し、与えられたスキルツリーから技能などを順次取得していくことで新たな技能やステータスの上昇効果を得られるのだが、望めば適性外のツリーを選択して解放することができる。
但しその場合はひとつ取得するのに適性職の時の5倍のスキルポイントが必要となり、目指したところで初級を脱却することも難しいためにそんなことをする者は少ない。
「うん。中級まで」
「は? んなアホな」
アイシャは構わずギルドカードのツリー表示を“武具職人”のものに切り替えて、見られては困る“エルフ弓”“アミュレット”“付与術”についてのみ“偽りの正義”の隠蔽効果で隠して見せつける。
「本当、なんだな。あれか、前回の花の精霊がやった大量虐殺のスキルポイントがそんなにあったちゅーことか」
「大量虐殺て」
キファル平原での探索行については報告書の改ざんをしたものの、男子ズには口止めも何もしていない。見られても困らないようにというルミの機転があったのと強化個体と亜神の件には関わってなかったためだ。
「私はそんな物騒な生き物じゃないですっ! ぷんぷん」
肩で話を聞いていたルミは可愛く怒るが応対する彼はそのせいで八つ裂きにされないかと顔が引き攣っている。
「しかも何気に武器職人と防具職人の統合職かよ。まあそんならいいと思う。ここで何がしたいよ?」
「うーん、可能なら作ってるところをまた見せて貰いたいのと、施設を使わせて欲しいかな」
「使うのは好きにして良い。けど見るのは……それぞれの許可を得て、かな」
得意不得意や秘伝みたいなのもあったりするからな、と。
「それならあなたのでいいわ。えっと……」
「ワシか。ワシはオプロっちゅーんや。そうやな、そういう事なら無難なやついくつか見せたる」
「ありがとう、オプロ。ちなみにオプロは……」
アイシャは目の前の汗と煤にまみれた男子がどの程度なのか知りたい。
「ワシには彼女がおる。だからすまんのぅ」
「そ、そうなんだ。残念だなー」
「残念だったね、ママ」
クスクスと笑うルミにデコピンしてアイシャはオプロの案内で武器製作を見せてもらうことになった。