雨音の隙間に
雨が止まない。せっかくのお休みだというのに何をするでもなくアイシャは椅子に座って濡れる街を眺めている。
物思いに耽るのもほどほどにストレージから取り出して見せたのはすずらんである。根っこごと洞窟の土ごとに乱雑に入れていたすずらんは、今は茶色い植木鉢に収まっていて、可愛い花をいくつもつけている。
「その効果は決して可愛いの一言で片付けられるものじゃないけどねえ」
このすずらんにはルミの物のようにコテージになったりする能力はないが、魂を吸い取って精霊にしたり地龍の子どもを眷属に、アイシャを小さくさせたりした。
「ふんふーん」
そこに鼻歌まじりで水やりを始めたのはルミである。
「ありがとう」
「花の精霊だからねえ」
聞けばその性質から花と呼ばれるものをこよなく愛する気持ちというのがどうしてもあるのだとか。だから仕事でも面倒でも義務でもなく、好きで花の世話をしたりする。
「そういえばルミちゃんもあの洞窟で花を咲かせてたんだよね。どんなのだったの?」
「ん? んー、それには見るのが1番だよね」
えいっとルミが気合いを入れると机の上に背丈の低めの木が生えて枝の至る所に濃い桃色の花をつける。
「変わった花、だね。ルミちゃんの願いはこれで叶えられていたんだね」
「まあ、最後には地龍様にやってもらうことになったけどねー。ちなみに自生地はこの辺には無くて、加工すれば解毒薬にもなるよ」
「さすがは花の精霊だね、詳しい」
「ふふん」
ひとしきり花を愛でた2人はそれらをストレージにしまってまた外を眺めている。
「──すずらんはしばらくは使っちゃダメだからね」
「まあ、今回はママと遊びたかっただけだから。それに滅多に効果は発揮しないよ。それこそママの眷属になっても良いって受け入れてくれる人にしか効果は出ないからね」
ルミの説明にアイシャはなあんだ、と安心するが、実際のところチーム“ララバイ”は全員その対象であるだろうし例の男子ズもクレールにアルス、ショブージあたりにも効果を発揮すること請け合いである。
午後は寝て過ごした。アイシャの本領ではあるがここのところお昼寝への貪欲さが失われつつあるのかもと危惧していたのだが、ただそのタイミングが無かっただけで雨の音を聞きながらするお昼寝は最高だなと眠りについた。
「──すけて」
「たすけて、アイシャちゃんっ!」
ガバッと起き上がったアイシャは外を眺めてまだ日も沈んでないし雨も止んでないと確認して現実であることを認識する。
「──マイム、ちゃん?」
呼ばれた気がしてアイシャは雨の向こうにその声の主を想う。雨はまだ止む気配もなく街を薄暗く濡らしている。