ルミ VS アイシャ
「さあ、始まりましたルミちゃん賞第一レース。一枠1番はご存知カタツムリ界のエース“リリーガール”。仕上がりは万全と騎手のルミちゃんも太鼓判! お隣二枠2番にはあまりパッとしない顔つきの“ビッチガール”。騎手は目利きなんて糞食らえなどと宣う愚か者アイシャ!」
「ちょっと良く分からないけど変なプライドを傷つけた事だけは伝わったわ。ごめんなさい」
突然の出来事に頭が追いついていないアイシャだが、とりあえず出来ることはやっておく。
「謝ったところで何も変わらないっ、泣いて泣いて悶える事になるのはどちらかっ」
「いや、罰ゲームあるのっ? てかよくこんなゲート作ったわね」
「各マイマイ、ゲートに入りました」
「カタツムリの音読みはマイマイなのね」
呆れつつなんだかんだで付き合うアイシャ。何がどうなってこうなったのか……。
「ならその違い。身をもって知ってもらうわっ!」
「身をもってって言われても……え? なんでストレージが開いて?」
ルミの挑戦状に困惑するアイシャの目の前でルミがストレージの穴に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探している。
「スペアホールよ」
「そんな秘密道具のはいってるアレみたいな……」
そんなルミが取り出したのはひとつの花。うっすら光る丸いそれは
「すずらん?」
「そうよっ! これをっ、こうしてっ、こうっ!」
どうやっているのか、空中で華麗なドリブルを見せたルミはアイシャの頭にすずらんの花でダンクシュートを決めた。
「ちょっと訳わかんないけど面白い」
アイシャはふふっと笑うが次の瞬間、頭をポンポンと叩かれて見上げた光景にほっぺたをつねった。
「なな、なんで、いつ生き返ったの──」
アイシャが少し見上げる背丈の女性。かつては儚さに月の光とともに消えた彼女がアイシャの頭を叩いている。
「ルミちゃんっ」
「ママ、私は変わってないよ。ママが私と同じになったの」
「は──」
「タロウくんと同じで私とも同じで」
つまりルミのダンクシュートによりアイシャの身長は150cmどころかいまや15cmほどになっている。
「単位を変えれば150mmで数字はおんなじだから大丈夫、大丈夫」
ルミの謎理論はアイシャに届かない。
「あ、あ、ああああっ、戻れるのっ⁉︎ 私は元に、戻れるのっ?」
「そこは普通小さくなれて冒険だ、ひゃっほおーいじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。私はまだ精霊に転生する気はないのよおお」
さめざめと泣くアイシャ。目の前にはアイシャのおかげで? 小さな精霊になってしまった女の子がいるというのに。
「ママ、ルミに勝ったら戻してあげるっ」
「本当に? そんなこと出来るの? っていうかそのパターンは口から出まかせのやつじゃない」
「こここ、今回は大丈夫。他ならぬママのことだもん。だから今はその小さな身体で私と勝負よっ」
身長差がかつての通りになった途端、アイシャは(この子こんなだったっけ)と残念な子を見る目に変わったが、とりあえず元に戻るためにルミの挑戦を受けて今に至る。
「各マイマイ一斉にいまっ、スタートっ!」
パァンっと大砲のひとつが鳴り、2匹のカタツムリは駆け抜ける。このあたりのカタツムリが少し大きめとはいえ、騎手とのサイズ感も適切とまではいかないために、なおさら乗りにくい。
「うおっ? 結構バランス取るのが難しいっ」
「ふっふーん。殻のフィジカルが強いのもタロウくん2号の凄いところよ」
「殻にフィジカルが。そんなの初めて聞いたわ」
カタツムリたちはぬめりを残す歩みを着実に進めてスタート地点のルミちゃんキャッスル正門を出てやっと30cmほど進んだ辺りだ。
「ていうかコース説明聞いてない」
「あ、いっけなーい。てへ?」
コースはルミちゃんキャッスルの外壁に沿って一周。途中いくつかの難所があるらしいがアイシャからすれば不安定な殻の上が既に難所。
「さあ、各マイマイ第一コーナーに突入したっ」
「いや、最初からずっとコーナーだよ……っと」
円形に城を囲む外壁である。だがその内のいくらかは背面の岩壁で賄われているために、そこは登山になると思われる。
「白熱してきたあっ!」
「そうなの? 私にはまだ分からないや」
「そうなのよ! 熱いレースは始まったばかりっ!」
ルミの元気な声がお昼寝館に響き渡る。